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第2章 天空の城と伸びる塔の謎

第46話 上質な弓と毒爆の矢

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 6体の毒魔物たちがスララスに襲いかかり、いよいよ万事休すかと思われたその時。
 どこからともなく賑やかな音が流れて来た。

「なんだロウ!?」

 スララスめがけ、翼を畳み急降下していた魔物軍団のリーダー毒ツバメが空中で急ブレーキをかけると、それに同調するように他の5体も動きを止めた。

 ズッチャ、ズッチャ。
 シャン、シャン、シャン♪

「も、もしかして……援軍かロウ!?」

 謎の音楽がどんどん大きくなり、焦りを募らせる毒ツバメ。
 もちろん、魔法陣の力で転移してきた歩斗たちに援軍が来るあてなど無い。
 仮に何らかの方法でユセリがこっちに来る事が出来たとしても、賑やかな音をかき鳴らす必要など無い……というか、歩斗は既にその音の主に勘づいていた。
 この島に来てからスララスは4体の魔物を倒しており、と思っていたところで……。

 ズッチャチャ、ズチャチャ。
 ギュイン、ギュイン、ギュイイイイン♪

「スララスさんのレベルが13にアップしま──」
「やっぱりそうだ!!」

 そう、陽気な音楽と共にやって来るといったらレベルアップ隊。
 敵に囲まれたスララスから少し離れた場所に歩斗、さらにその歩斗から見て右手の方向に姿を現した。
 そのリーダーのハイテンションな祝福の言葉に、予想が的中して喜ぶ歩斗の声が重なった。

「ちっ、邪魔しやがってロウ!」

 レベルアップ隊の存在を知ってか知らずか、苛立ちを露わにする毒ツバメ。
 小さな体とは言え、レベルアップ隊は4人構成。
 もし援軍だと考えれば、6対6と数の上では互角になる。

「者ども、そいつをやるのはあとだロウ! まずはアイツらから叩くロウ!」

 毒ツバメはスララスの頭上で翼を羽ばたかせながら、クチバシをレベルアップ隊の方へと向けた。
 忠実な5体の魔物たちは迷わずその指示に従い、体の向きをリーダーのクチバシに合わせる。

「ひぃ! なんたること!!」

 焦るレベルアップ隊のリーダー……には悪いが、歩斗はこれを起死回生のチャンスと捉えていた。
 魔物軍団の視線が揃ってレベルアップ隊の方に向いている隙に、歩斗はゆっくりと左サイドからスララスの方へ歩き出した。

「そーっと……そーっと……うわっ」

 敵の様子ばかりに気を取られていた歩斗は足下に何かがあるのに気付かず、つまずきそうになるのをグッと堪えた。

「なんだよもう……」

 愚痴りながら足下に視線を落とす。
 するとそこにあったのは……宝箱!

「あっ、もしかして最初にスララスが倒した細長い奴の……よっしゃ!」

 歩斗は小さくガッツポーズしながら、そっと宝箱を開けてみた。
 中に入っていたのはなんと……。

「うおぉ! 弓矢じゃん! 最高過ぎる!!」

 いま歩斗が持っているものより落ち着いた茶色の弓と数本の矢。
 強そうな気配がプンプン漂っている。

「そんじゃ、遠慮無くいただきまーす」

 律儀に声をかけながら宝箱の中から弓矢を取りだす歩斗。

「それは……毒爆の矢じゃないか!」

 突然、背後から声がして驚く歩斗だったが、誰だかすぐ気がついてギリギリ驚きの声を上げずに済んだ。

「えっ、ケリッツいつの間に??」
「うん、まあバトルは苦手だけどすばしっこさには定評があるもんで! って、そんなことより、凄いよその矢! 〈毒爆《どくばく》の矢〉って言って、特に毒属性の相手に対して絶大な──」 
「やっちまえロウ!!」

 2人が話してる最中、毒ツバメのかけ声と共に魔物軍団がレベルアップ隊に向けて攻撃を開始した。
 
「うわっ、やばっ!」
「リーダー、さっさと帰ろ!」
「帰りましょ!」
「も、もちろん! ってなわけでさらば!!」

 そんなやり取りをしつつ、レベルアップ隊は演奏なしで脱兎の如く逃げ帰っていった。
 3秒遅れてその場にたどり着いた魔物軍団の面々は、狙った相手がどこへ逃げたのかとキョロキョロ顔を動かしている。

「あっ、マズい……!」

 焦る歩斗。
 本当だったら魔物たちの視線がレベルアップ隊に集まってる内にスララスと合流する予定だったのだが、このままだと──。

「おい、アイツいつの間にロウ!?」
「やべ……」
 
 よりによって毒ツバメと目が合ってしまった歩斗は、新たにゲットした弓矢を持ってスララスの元へと走り出した。

「イムイムゥ!!」

 敵に囲まれ恐怖に怯えていたスララスが、ようやく歩斗の動きに気付き、ピョンピョンと跳ねるようにして相棒の元へ駆け出す。
 が、敵がそれをみすみす黙って見守るわけがない。

「アッチだロウ!」

 毒ツバメのクチバシが歩斗へと向けられた。

「くそぉ~、こうなったら……」

 歩斗はスララスと合流して作戦を練り直してる余裕など無いことを悟り、その場に立ち止まって体の向きを魔物軍団の方へと変えた。
 両足を肩幅ぐらいに開き、膝を少し曲げて重心を下げる。
 ゲットしたばかりの上質な弓を左手に持ち、同じく宝箱に入っていた矢をセット。
 右手で矢を引き、弓を左右に動かして矢尻を目標へと向ける。
 話が途切れてしまったが、この弓矢を「凄い!」と言っていたケリッツの言葉を信じ、歩斗が真っ先に狙うのはもちろん……。

「えいっ!」

 歩斗の“右目スコープ”がターゲットの体を捉えた瞬間、右手をパッと広げ、もの凄い勢いで矢が放たれた。
 その放物線の先に居るのは、リーダーの毒ツバメ!

「うわっ、しまったロウ!」

 それまで活躍してたのはほとんどスララスだけだった事もあり、歩斗に対する油断があったのか。
 焦った毒ツバメが翼を翻して避けようとするも時すでに遅し。

 パンッ!

 矢が体に触れた瞬間、強烈な破裂音が鳴り響き、ダメージを表す『34』の数字煙が立ち上った。

「す、すげぇ!!」

 毒ツバメが力なく地面に落下するのを見ながら、歩斗は興奮気味に叫んだ。

「アユトさん、すごイム!!」

 その場に到着したスララスも歩斗の技術、そして新武器の威力を称えた。

「えへへ、それほどでも~」

 顔をふにゃりとさせながら照れくさがる歩斗。
 初めて自分の手で敵にダメージを与えることができた喜びに浸っているのとは対照的に、リーダーを撃ち落とされた魔物軍団の面々は加速度的に焦りの色が濃くしていく。

「これ、ひょっとして大チャンス!?」
「イムイムゥ!!」
「よっしゃ、そんじゃどんどんいくよ!」

 自信に満ちた表情で弓を構える歩斗。
 狙いを定めたのは……毒キャベツの魔物。

「えいっ!」

 パンッ!

 歩斗の放った矢は、またもや破裂音を鳴り響かせた……のだが。

「えっ!?」
「イムッ!?」

 揃って驚きの声を上げる歩斗とスララス。
 矢が命中したのは狙いを定めた毒キャベツでは無く、またもや毒ツバメの魔物!
 なんと、毒キャベツに矢が当たる寸前に体を投げ出し、その身で受け止めのだ。
 ダメージ『35』の数字煙が立ち上る。
 驚くべきはその煙の色。
 2度の攻撃あわせて70以上のダメージを負ったにも関わらず、瀕死を表す赤では無く通常の白。

「さ、さすが敵のリーダー、恐るべし……!」
「べしイムぅ……!」

 イケイケだった歩斗の表情が曇りはじめ、スララスもブルブルと体を震わせだした。
 毒属性の相手に対して絶大な威力を誇る毒爆の矢。
 それを手にして勝利を手中に収めたかに思えたが、底知れぬ強さを見せる毒魔物軍団のリーダー毒ツバメ。
 ……とは言え、元から強いスララスがさらにレベルアップ。
 それに加えてちゃんと敵を攻撃できる武器を手にした歩斗。
 敵の数は当初の10体から6体まで減少。
 魔物たちのほとんどは毒爆の矢に恐れをなして動きを止めているのだが……。

「ま……負けてたまるかロウ!!」

 唯一、リーダー毒ツバメの瞳だけはまだギラギラと輝き、2発も受けた毒爆の矢に臆することなく紫色の鋭いクチバシを歩斗たちに向けた。
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