不思議の国の悪役令息

猫崎ルナ

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『…もしかして私のことを憐れんでるわけじゃないでしょうね?!』

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俺は少し考えた後に静かに席を立ち、誰もいない教室を後にした。

先生に言われたことを脳内で反芻しつつ寮への道を歩いてゆくと、途中でクラスメイトのハトネが道端で立ち竦んでいることに気付いた。

俺とハトネはクラスメイトという関係であり、仲が良いわけでも悪いわけでもない…ただの学友。そんな関係だ。

俺がハトネについて知っていることと言えば、曲がった事が嫌い…そう、正義感がとても強くて何事もハッキリ言う女性だと言う事ぐらいだ。


(夢の中での記憶だからな、同じなのかどうかは知らない。…いや、どうだろう。ちょっと話しかけてみるか?)


俺は少し考えた後…なんとなく、話しかけてみた。



「どうしたんだ?」

「…あ、えぇ…。って!あんたっアリスじゃない!」

「え?」

「もう…私がどんだけ苦労しているかなんて、あんたにはわからないんでしょうね!」


話しかけた相手が俺だと知るや否やハトネはいきなり怒りだした。

けれど、怒っていたのは初めだけで、話していくうちにどんどんと吊り上がっていた眉は下がってゆき、最後の方はとても悲しげな表情へと変わっていた。

なんでそんな反応をしたのかなんて些細なことは置いておき、俺はハトネの言う苦労がなんなのかが気になった。



「私はね、いつもきちんと考えて、その場しのぎとかそんなんじゃなくて、ちゃんと考えて選択してたのよ!

相手によってもちろん言葉も変えたし、いく場所も考えてた。

でも!でも!どれだけ頑張っても途中からいつもいつも邪魔をする!

やっと、やっと、やっと解放されたと思ったらまた初めからよ!幸せだったのはほんの一瞬だけ!

いつもいつも大変なことの方が多いんだから!何をどうしても現れて!

もう、もう!本当に、一体…一体なんなのよ!」

「そ、そう…なのか」



怒ったり悲しんだりしながらもハトネの喋りは止まらない。

ハトネがどうやらもの凄く大変な思いをしていることだけは理解できたのだが、全くもって俺には意味がわからない。

生きる上で言葉の選択肢や行動の選択肢が多数出てきて、その選択をしてゆくのは当たり前のことであり、自分が選んだ選択肢が誰かに邪魔をされる…阻害される事など普通のことだと思えるのだが…。

…それを真剣に考えて選んでいたと言われても、俺もそうだとしか言いようが無い。考えて行動した結果俺は処刑されていたしな。



…。もしかして今俺はハトネに八つ当たりをされているのだろうか?話しかけただけでこれは理不尽すぎるんじゃないだろうか?

俺はまだまだ喋り続けるハトネに対し、どうしたものかと思案するが早々妙案は出てくるはずもなく…ただただハトネの話す愚痴のような八つ当たりのような話を聞き続けるのだった。

思えば俺は夢の中の記憶の中でいつも何かに対してイライラしていたような気がする。それは上手くいかない人生に対してだったのか、周囲に対してだったのか、俺はなんであんなに自分が間違っていないと強く思っていたのだろうか?

ハトネの言葉を聞きながら俺がふとそんなことを考えていると、そんな俺の態度が気に食わなかったのか、俺がいること自体が気に食わなかったのかは分からないが、頭を抱えたり顔を覆って悲観しているようなそぶりをしていたハトネの視線が急に俺へと向いた。その表情は夢の中の俺と同じだった。



「いつまでそこにいるのよ!さっさと寮にでもあの女のとこにでも帰ればいいじゃない!いつまでもそこで私を見て…もしかして私のことを憐れんでるわけじゃないでしょうね?」

「いや、すまない…」



謝ろうと口を開く俺に対し『いいからさっさと行きなさいよ!』と言いながら踵を返して何処かに行ってしまったハトネ。

…俺にどこかへ行けと言いながら、ハトネがどこかへ行く。これはこれで意味がわからない。

その後ろ姿を見ながら俺は呆然としていたが『まぁ、こんな日もあるか』と思い、俺は何事もなかったかのように寮へと歩みを進めることにした。

寮の自室へ恐る恐る入る俺のことを訝しげにみるメイド達と俺を俺として認識しているのか不安に思い様子を伺うといった無言のやりとりを経て食事と入浴を済ませた後、ベッドの中で少し自身について考えた。

俺は物心ついた時から貴族とは何か、平民とは何が違うのか、高位貴族としてどう振る舞うべきなのかと教えられてきた。けれど入学してからの俺は何かおかしい。

いや、おかしいのは周りなのかもしれないし、俺の夢のせいなのかもしれないが…おかしいことだらけなのである。

もしかすると俺は何か悪質な病気、または呪いにでもかかっているのかもしれない。いや、これは夢か?今の俺は実は寝ていて本当の俺はベッドの中でこの俺を見ているのかもしれない。

いや、俺はこんなにはっきりとした夢なんて生まれてこの方見たことがない。匂いや痛みなんか感じる夢があるのだろうか?いや、それを言えば俺のみた夢も痛みや恐怖心などはっきりと覚えている程に…いや待てよ?確かにその時の恐怖心などは覚えているが、痛みは…感じた記憶はない?

そういえば夢の中で俺は俺のことを見ていたな。…特段気にしてはいなかったが、思い出してみれば夢の中で俺は第三者視点で自分のした事やされた事を見ていた。夢だからと気にしていなかったが、処刑される時…あの時の恐怖は、ではなくて、何かこう…時の…そうだ、小さい頃に悪戯をしてそれが大事になってしまった時の…。
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