7 / 9
『お前は!お前であることを放棄するべきじゃなかった!』
しおりを挟む「ねーねーアリス。私ね、アリスのこと好きだよ?」
「急にどうした?」
「はい、不正解!ここは、俺も好きだよって言うところでしょ?」
寝てるのか起きてるのか分からない。
「ねぇアリス。私…みんなに嫌われてるみたいなの…」
「何かあったの?」
「なんでか分からないんだけど…最近…私の私物がよく無くなってるの」
真っ暗な場所でふわふわと浮いてる俺の周りでたくさんの話し声が聞こえる。
「ねっアリス。私欲しいものがあるのっ!」
「今度は何が欲しい?と、いうか…最近欲しいものだらけだな?」
「だって、アリスからの贈り物って考えると嬉しくなっちゃうんだもんっ!」
男の方は…俺?だけど、俺はこんなこと言った記憶はない。
「ねね、アリス。ウサミのこと妻にしてくれる?ウサミはアリスがいないと…」
「ったく。ウサミは俺がいなきゃダメなやつだな」
「えへへ…そうだよ?ウサミはアリスがいないと生きてけないんだもん…」
なんだ?俺は知らない…。こんな話はしたことがない。なんだ?これはなんの記憶だ?一体俺はどうしたんだ?
「あのさ、アリス。計画はちゃんと進んでるんだよね?」
「は?俺の計画が進まないとかあるわけないじゃん。あるとしたらお前が駄目にしてる時だけだし」
「は?意味わかんないんですけど。まぁいいや、ちゃんとアイツ…ウサミを消してよね」
…ウサミを消す?
「…っは!」
俺は机にうつ伏せていたままの顔を勢いよく上げる。
…。
どうやら俺は授業が終わってそのまま机で寝てしまっていたらしい。
がらんとした教室の中は静かで、窓から差し込む日が夕焼け色だからか教室内は少し寂しげな雰囲気がする。
そういえば朝のメイド達は様子がおかしかったけど、このまま俺は寮へ帰ってもいいのだろうか?
寝る場所がないのは困るんだがな…。
誰もいない事をいいことに、座っていた椅子の背もたれに背を乗せる。
「あー。なんかやになる」
俺が気だるげにそう呟いた時、俺の後方から目前へと何か白い煙がふわふわと漂ってきた。
『なんだこれ?』と、俺はその煙をゆっくりと目で辿ってゆく。
特に何か思っていたわけでもなければ、この煙に興味があったわけでもない。
そこにあるから、ぼうっとした頭のままソレに反応しただけだった。
「君は…誰だ?」
俺が完全に振り向いた形になった時、俺の目線の先にはクラスの担任がいた。
白いジャケットに緑色のシャツを合わせたとても目立つ格好をしてるこの担任。
いつも同じ服装をしているので皆に『先生はその服以外にも服は持っているんですか?』と、聞かれるのだ。
担任曰く『そんな些細な事を気にするより、他にもっと気にしなければいけないことがあるのだよ』らしい。
全くもって返事になっていない。
その担任が俺の真後ろの席に座り、水タバコをふかしているのである。
俺の顔なんてここ二日毎日見ているであろうに『君は誰だ』と聞いてくるのだ。
これはいつもと同じで多分、表面的な質問じゃないのだろう。
「先生。俺は…今の自分がよくわかりません。二日前までははっきりわかっていたとは思うのですが…最近変わったことが多すぎまして」
「それは説明してもらわねばならないな」
「きっと話ても信じてはもらえません。俺自身もよくわかっていないんです。…きっと俺は俺ではないんだと思います」
「そんな曖昧な」
「先生は考えた事はありますか?もしある日突然自分の未来が見えたとして…学園で過ごすこの三年間は幸せで、なのに…裏切られて自分が死んでしまうなんて事が…そう。決まっていたとしたら。…なぜそうなるかは分からない、でもそうなるかもしれない。そんな中おかしな事が起こり始めたら…多分先生も説明なんてできないでしょう」
「思わないね」
俺の回りくどい話し方が頭にきてるのだろう、水タバコのペースが早い。
「お前は…何が言いたいんだ」
「いえ…ただ少し、疲れているだけです」
「ハッ。…お前は誰だ?何がしたいんだ?どうしたい?どうなりたい?そんなの他人がわかるものじゃない」
「…そう、ですね」
「お前が自分のことを誰だと思っているのかは知らないが、俺は俺のことを俺だと思っている。決めるのは自分だ」
先生はひどく顔を歪ませながら俺の鼻先へと水タバコを向ける。
「お前は!お前であることを放棄するべきじゃなかった!」
先生はそう言って席を立ち、呆然としてる俺のことなど一瞥もしないまま後ろの扉から教室を出て行ってしまった。
俺は…アリスト。
この学園に通う学生のアリストだ。
それ以下でもそれ以上でもない…この学園を死ぬことなく卒業することが俺の目標であり、俺がなすべき事である。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろうでも公開しています。
2025年1月18日、内容を一部修正しました。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる