上 下
9 / 16
世界の理

聖女とははじめから聖女ではない

しおりを挟む

この国には聖女が生まれることが度々ある。

聖女はこの世界に瘴気が増え、世界の均等が危うくなると生まれる存在である。

『さてレントよ。この聖女だが…あまりにもこの世界に都合がいい存在だと思わないか?』




「はっ!」
俺が目を覚ますと神殿長が書類仕事をしている姿が見えた。

「…頭いてぇわ、何か吹っ飛ばされたんだが。」

俺がそう言いながらソファーから身を起こすと、書類に目を向けていた神殿長が俺の方を向いた。

「レント。お前は知っているか?今この世界の均等は崩れ、危うい状態になっていることを」

「はぁ?意味深なこといわれてもわかんねーんだけど」

「私が昔言った事を覚えているか?聖女についてだ。」

「あー…あぁ?この世界に都合がいいってやつ…か?」

「そうだ。私達だけに都合のいい存在などいないのだよ」

「…どう言う意味だよ。」

「聖女は◯◯であるために、この世界の理から外れたものである。」

「なんだ?なんて言った?」

「レント。お前はもう気づいていいはずだ。お前はもう…起きたほうがいい。」





この国には聖女が産まれる。聖女とは天から授かった娘であり、その出自も分からない娘である。

天から授かった聖女は天の知識を持ち国を豊かにもする。

傷ついたものを癒し、人の心の内を見ることができ、先に起こりうる天災を予言する。

聖女とは誰に教えられる事もなくそう言った知識を持っている者である。


さて、聖女とはそれだけを聞くとまさに天からつかわされた、神の使いだと思うだろうがその認識は違う。

聖女とは初代国王がつけた名称なだけなのだ。


聖女とは王国と神殿で誓約を誓ったものであり、誓約を誓わなかったものは…魔女である。


考えてほしい。

聖女の持つ力は簡単に人を堕落させ、信奉者を増やし、国を傾けることのできる存在である。

そんな危険な人物の性善性だけを信じることができるのか?



聖女は絶対に産まれると教会へと足を運ぶ。その理由はわからないのだが、絶対に教会にゆくのだ。

教会には聖女が来訪するとわかる仕組みがあるので、聖女は自我が定まる前に国と神殿に誓約魔法を使われるのだ。

誓約魔法の内容は些細なモノであり、個人の尊厳を損なうモノではない。

ただ、魔女へと反転してしまうことを誓約にて縛るのである。


誓約魔法はその者の魂へかけられる楔であり、これは聖女が亡くなるまで縛りが取れる事はないのである。

聖女は魔女であり。善であり悪である。


これは国王と神殿長が代々引き継いでいかなければいけない事実であり、儀式なのである。




ただ、一つ。

聖女が聖女の契約を結ぶと国の未来が変わるのである。

本来の世界の道筋と変わる為か、その世界に綻びが生まれるのだ。

元々の筋書きの上から新しい筋書きを書く様な物なのかはわからないが、どうしてもおかしくなってしまう所が出て来る。



ある時は聖女が来たことにより善政をしていた国王が悪逆非道の独裁者になっていったり

ある時は人を救うべく生きてきた聖職者が子供を殺し食べるような悪魔になってしまったり

ある時は死んだはずの者が生き返って生活して活躍していたり

大昔の王国がいきなり地図に増えていたり

異世界から大量に人が落ちてきたり

気付けば当たり前だったことが消えていたりと


何かおかしな事が知らないうちに起こって居るのだ。

これらは文字にするとわかりやすくおかしな出来事なのだが、その時過ごしてる人々はそれをおかしな事だと理解ができないのだ。

理解が出来ないのなら今こうして理解できて居るのがおかしな話だと思うだろうが、それには理由がある。

この世界に聖女が産まれると、世界の中心となる者が出て来るのだ。

その者は気付けば当たり前の様にそこに居て生活をして居る。
その者自身も気付いていないのだ、気付けないのだ。

ただ一つ、その者がこの世界を愛す事ができると、世界が元の形へと戻ろうとしだすのだ。

所謂ハッピーエンドに向けて動き出すという事だ。






…あぁ、体中がいてぇ。

「レント、おきろ。」

「…あん?誰だよ」

後ろから俺に声をかけるやつが居る。

「レント。レント。おきんか。」

ッチ。俺は舌打ちをしながらまだ痛む体を起こし、声がした方を向く。

「やっとおきたか、レント。」

「ぁあ、なんか体がいてぇんだが?」

神殿長のアクアブルーの瞳が俺を心配そうに覗いてくる。

「お前はワシの結界に弾き飛ばされたんだ」

「なんでだよ!んなもんはってんなよ!飛ばされる方の身にもなれ!」

ふざけんなよ…人の事呼んでおいて吹っ飛ばすとか。

「いや、お前が魔女に憑かれていたからだ」

「はぁ?どういう事だよ」

神殿長はため息を吐きながら、意味わかんねー事を言い出す。

「レント…お前は魔女のお気に入りになってたんだよ」

「…魔女って誰だよ。んなもん知らねーよ」

俺は意味のわからない神殿長の話にうんざりしながらも会話を続ける。

「聖女の事だ。レント、お前は気付かなかったか?違和感は無かったか?聖女は今もう既に聖女では無い事に。」

「はぁ?しらねぇ…事はないな。確かにおかしな事はずっとある。それが何なのかはわかんねぇが」

「聖女の話は昔したよな?お前はどこまで覚えている?」

「あー?この世界に都合のいい存在はいないみたいなこと言ってたよな?」

俺は昔話した内容を思い出すと言うよりも、ごく最近この話をしたような妙な既視感に襲われた。

「そうだ。聖女は現れた時にその時の国王と神殿長にて契約魔法を行使し聖女が魔女にならないようにするんだ。そうじゃないと、危険だからだ。」

「で、それが本当ならなんで魔女になってるって話になんだよ」

矛盾した内容にだんだん腹が立ってくる。

「それはわからん。だが、魂に欠けている楔は解ける事はない。つまりは聖女は魂が二つあるのかもしれない。」

「あぁ?何でだよ」

「それを今から調べないといけないんだよ、レント。お前を使って」

何で俺なんだよと思い文句を言おうと思うが、あまりにも神殿長が真剣な顔をしているので言う事はできなかった。



「さて、レント。君の全てを見せてもらおうか。」



そう言った神殿長は何だか泣きそうな顔をしながら俺を見ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

氷麗の騎士は私にだけ甘く微笑む

矢口愛留
恋愛
 ミアの婚約者ウィリアムは、これまで常に冷たい態度を取っていた。  しかし、ある日突然、ウィリアムはミアに対する態度をがらりと変え、熱烈に愛情を伝えてくるようになった。  彼は、ミアが呪いで目を覚まさなくなってしまう三年後の未来からタイムリープしてきたのである。  ウィリアムは、ミアへの想いが伝わらずすれ違ってしまったことを後悔して、今回の人生ではミアを全力で愛し、守ることを誓った。  最初は不気味がっていたミアも、徐々にウィリアムに好意を抱き始める。  また、ミアには大きな秘密があった。  逆行前には発現しなかったが、ミアには聖女としての能力が秘められていたのだ。  ウィリアムと仲を深めるにつれて、ミアの能力は開花していく。  そして二人は、次第に逆行前の未来で起きた事件の真相、そして隠されていた過去の秘密に近付いていき――。 *カクヨム、小説家になろう、Nolaノベルにも掲載しています。

処理中です...