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不穏な王都編
安心した聖女は次の瞬間絶望する
しおりを挟む「どうしたんだ!何かあったのか!?」
頭を打ったことで出た悲鳴を聞いたセリナは、私に何かがあったのかと心配し声を荒げる。
その声に対して今あった出来事を説明する私。
セリナさんは私の話を聞いた後に小さくため息を吐いていた。
紛らわしいことをしてごめんねと思いながら、私は気になっていたことを聞くことに。
「どうしてセリナさんがここにいるんですか?見つけたとさっき言っていましたが、もしかして探してくれてたんですか?」
私の問いかけに対しセリナさんは『なんだそんなことかと』言った後、一呼吸置いた後に話し始めた。
セリナさんは話しながら外で何かしてるらしく、時折話が止まったり外からガタガタ聞こえたりしていた。
セリナさんの話をまとめると、私がミミちゃんと庭へ散歩に行って帰ってこないことに皆が気がついた後、各々が私を探すために各所に話をしに行ったらしい。
セリナさんは仲間の騎士達と一緒に『聖女捜索班』に入って探していたらしいのだが、正直言うと話を聞いた時はあまり気が乗らなかったそうだ。
けれど、仕事とプライベートは線引きをするべきだと思っているセリナさんは雑念を一旦置いておき、周りの仲間と手分けして私を探す事にしたらしい。
仲間と城内の様々な場所を探し、最終的には城の裏に広がる森へと捜索範囲を広げたらしい。
森の中にあるのかも分からない痕跡を丁寧に探している時、セリナさんの近くで物音がしたそう。
そちらへ視線を向けると、森の奥へと入ってゆく不審人影を見つけたそうだ。
セリナさんは必死でその人影を追いかけたのだが、気付けば取り逃していたそうだ。
見失う事はあり得ないのに、見失ってしまったのだと言うセリナさん。
その声は自分自身への不甲斐なさの所為なのか、酷く震えていた。
そして完全に単独行動をしてしまったセリナさんは、気を取り直し仲間の元へと急ぎ帰ろうとした。
すると、どこからか甲高い声が聞こえた気がしたらしい。
気のせいかも知れないが、一応確認をする為に周囲を調べる事にしたそう。
気のせいだったら、それはそれで別にいいかと思ったらしい。
そのまま森の奥へと足を運んでゆくと、そこは崖だったそうだ。
もしかするとさっきの不審者はこの崖を降りたのかも知れないとセリナさんは確認のため近づいた。
すると、違和感のある場所を見つけたそうだ。
そこは一見ただの崖だったらしいのだが、なぜか地面をみると人が歩いたような跡があったそう。
しかも、崖のぎりぎりに足跡があったそうだ。
セリナさんはそれを見て強烈な違和感を感じ、その跡と同じ場所に足を置いてみることにしたそう。
すると、セリナさんの視界ではつま先は崖の淵から出ているというのに、なぜか足の感覚は全く違ったそうだ。
このままつま先に体重をかければ普通は転落するのだが、足の感覚ではつま先も地面に完全についている様だったらしい。
視界に見える崖の情報が体をこわばらせていたらしいのだが『騎士として逃げる事は許されないん』と思い、そのまま一歩踏み出したそう。
すると、今までとは視界が一変して知らない場所に出たらしいのだ。
大昔にあった『転移の魔法』。
セリナさんは『今では誰も使えるものはいないとされている転移の魔法が発動した』と私に言った。
そして目の前に小さな石でできた家の様なものがあり、その中から泣き喚く私の声が聞こえたらしい。
私はその話を聞いてセリナさんに感謝をした。
崖から落ちる可能性があったにも関わらず、私を助けるために勇気を振り絞ってくれたのかと。…そう思ったのだ。
「私はここから出られそうですか?」
セリナさんに向けて私がそう言うが、ガタガタと言う音が大きすぎて声が聞こえない。
石の壁を崩してくれているのだろうか?
セリナさんが居るであろう場所にある穴からは陽の光は見えない。
私はここから出られたら先ずはセリナさんに感謝の言葉を言おうと思いつつ、静かに返事を待った。
見つけてもらえたことで安心したからだろうか、私は気がつけば少し寝てしまっていたようだ。
外から聞こえていた大きな音はもう聞こえなくなっていた。
「セリナさん?ごめんなさい、少し寝てしまってたみたい」
私が上に向かってそう言うが、返事はない。
そして、私はある違和感を覚えた。
いつもなら上を向いた時、夜でも数ヶ所の穴から月の光が入っていたはずなのだが…それが一切ないのだ。
おかしい。
おかしい、なんで?おかしい。
いや、違うよね?え?
暗闇の中、今はなんの音も聞こえない。
なんだか少し息苦しい気がする。
こわいこわい、こわい。
だめだ、息を荒げたらだめだ…。でも。
恐怖で荒くなる呼吸と心拍、何も見えない聞こえない状況での恐怖からくる体の震え。
セリナさんがきたことで一瞬安心した私は今、前より一層深い絶望感を味わうことになった。
私はセリナさんに見捨てられたんだ。
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