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手紙が浮いてる…
しおりを挟む食事を終えた後自室に戻った私は色々考えていた。昨日から考えるか食べるかしかしていない気がする。
でも仕方がないじゃない?頭の中を整理しようと思っても、よくわからないんだから…まるで真っ白なパズルをやらされてるかのよう。それでもサクサク完成させる人もいるかも知れないが、私は無理だ!頭がいいわけじゃないもの。
あー…気になる。気になるけど聞けない。モヤモヤするー…
そんな悶々とした気持ちを抱えたまま、私は数時間ほど後に公爵様と会うことになった。
*
部屋まで迎えにきてくれた公爵様の後ろをトボトボ歩く私。なにもしていなにのに罪人の様な気持ちになるのは何で何だろうか…。
屋敷の端にある小さな部屋の前で公爵様は立ち止まり、少し躊躇う様な様子を見せた後、ゆっくりと扉を開いた。
部屋の中は真っ暗で、長い間人が入っていない様子だ。埃っぽい…
空気が悪いことを気にしてくれたのか、公爵様は部屋の中に入り、窓を少し開けてくれ、その後私に向き直る。
「來様に見ていただきたかったのです」
そう言って公爵様が手を向けた方向を見るとそこには一枚の封筒が中に浮いていた。そう、部屋に通された時から私はこれに気がついていた。部屋の中央で浮いていたモノに目線は釘付けになっていた。
いや、何で浮いてるの?意味がわからない。糸で吊るされているわけでもなく、その封筒の上下左右の空間を手で触ってみても何も手に引っかかることはなかった。
私は困った。見ろと言われたけど、これをみて何と反応をすれば良いのか…。
『うわぁー!すっごーい!』…違うな。
『こんなの初めてぇーん』…違うな。
『アァーン!すっごーいん』…いやまて、なんか思考がおかしな方向に行ってる。落ち着け…
悩みながらその封筒を眺めていると、その封筒にうっすらと文字が書いてある事に気がついた。
ん?
その文字をよくみてみようと顔を近づける。書いてから時間が経ちすぎているからなのか、所々見えにくいけれど、そこには確かに『来栖來様』と日本語で書かれていた。
え?これ私宛の手紙なの?え、誰から?
まさか自分の名前が書いてあるとは思っていなかった私は、とても分かり易く狼狽した。仕方がないじゃない?謎しかないよ!
そんな私を優しく見つめる公爵様。いや、何か言ってよ…これ取って読んでもいいの?自分で聞けってことか?
チラチラと公爵様に視線を送った後、私は恐る恐るその封筒に手を伸ばした。ゆっくりゆっくりと…ダメだったら声をかけてくるだろうし、そうなったら止めれば良いのだ。声をかけるより簡単だ!
伸ばした手はなににも遮られないまま封筒を掴んだ。ゆっくりと中に入っている便箋を取り出し、読んでいく。
それはかなり年季が入っていて、文字もところどころ霞んでいる手紙だった。
『来栖來様
きっとこの手紙を読んでいる時、頭の中になんで?どうして?って疑問符ばかりが回っているんじゃないかな?
時間がないから、全てのことを書くことができなくてごめんなさい。
きっと貴方はこれからたくさん悩み、苦しみ…もがき続けると思います。
けれど貴方は絶対に幸せになることが出来る。絶対にね?
…なにをどう書いたらいいか悩んだけれど、ただ一つだけ言うとすれば貴方が誰かを愛しいと思ったなら愛しなさい。
一緒にいたいと思ったら一緒にいなさい。それで良いのです。 それだけでいいのです。
愛されることに慣れなさい、そして、同じ様に愛しなさい。
これだけです。そして…残酷な事実になりますが、貴方は元の世界に帰る事はできません。
この世界で生きるしか道はないのです。
些細なことしか手助けはできませんが、私の子孫に貴方のことを話しておきました。
レイファン公爵家は貴方のことを全面的に支援しますので、安心してください。
どうか、貴方のこの先に多大なる幸せがありますように…。』
私が手紙を読み終わった時の感想は『無』だ。
いや、どう受け止めていいかわからない。
まず、この手紙の差出人は私が異世界からくることを知っていた。そして、何だか私のこれから先も知っているかのような印象を受ける。この世界に骨を埋めないといけない事も、何故公爵様が私に良くしてくれるのかもふんわりだけど理解した。
この手紙を全部信用するかは置いておいて、一先ずは公爵様の話を聞きたいかもしれない。私の知らない事を知ってるだろうし…。
混乱する思考を少し落ち着かせた私は、便箋から視線を外し、公爵様をチラリと見た。
ここで自分から積極的に話しかけない察してちゃんになるのは許してほしい。こんな時…というか、どう話を切り出したらいいかも微妙なんだ。積極的に話しかけて失言するよりも話しかけてくれる事を待つ方が楽なんだ…。
私の視線に気がついた公爵様は少し微笑み『そうですね…お話ししたい事もありますので、來様がよければ庭にでもいきましょう』と言ってきた。
この部屋は埃っぽいし、家具などなにもないから話をするのには向かないだろうと思い、私は公爵様を見てコクリと小さく頷いた。
あの手紙は私以外が触れることも、読む事もできないものだったらしく『どうぞそのまま持っていてください』と言う言葉に甘えることにした。
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