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美貌の公爵様が現れた
しおりを挟む至福の食事の時間が終わった後、沢山いたメイドは残った料理を持って下がっていった。
中途半端に残された料理は捨てられてしまうのだろうか?それとも使用人?の人達が食べるのだろうか?どちらにせよ申し訳ない気持ちでいっぱいだ。食事を残すなんて言語道断!と言いたいが、あの量は流石に食べきれない…。
残してしまった料理達に心の中で謝罪しながら手口を清めた後、侍女が私にこの後の話をしてくれた。
どうやらこの館の主人が私と話がしたいとの事。
私が落ち着いたら声をかける様にと言われていた様で、話ができる様ならお伝えしますと言われた。
正直話なんてしたくは無いけど、ここまで上げ膳据え膳してもらっておいて話はしないとか我儘は言えない。
仕方なく、本当に嫌々だが、腹を決めて会話をすることに決めた。
本来なら私が話をしに行かなくてはいけないのだろうが、足の裏などの傷が癒えていないのでこの部屋にきてくれることになった。
待つのは緊張する。
どんな話をされるのか、自分のことをどう話せばいいのか分からない今、権力を持っていそうな人物と話をするなんて恐怖でしかない。
ベッドからソファーに移動したほうがいいんじゃ無いかと目線を移せば『そのままで大丈夫ですよ』と声をかけられる。
髪の毛などボサボサじゃ無いかと手櫛でとけば、何故かサラサラ。チラと侍女に目線をやれば『寝ている時に身体や髪は清めさせてもらいました』と笑顔で返される。
この侍女…話しかけないでも返事が返ってくる。もの凄く仕事ができる女性だ。…心読まれてるとか無いよね?
そう思いまたチラと見れば『心を読むことはできません』と微笑みながら返された。…絶対読んでいる!
手持ち無沙汰でソワソワしていると、部屋にノックの音が響き、一人の男性が入ってきた。
私はその男性を見た瞬間、息が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。
すらりとした長身、白銀の長い髪を左側に流し一つにまとめていて、とても品の良い20代ほどの男性がそこにいた。
すらりとした鼻筋に薄い唇、緑色の宝石のような瞳はやや切長でとても涼しげな印象だ。
この館の主人?当主?だと言うので50代程のおじさまを想像していた私は、現れた男性の若さにも驚き、その整いすぎた容姿にも驚いていた。
二次元から飛び出してきたと言われても納得するレベルの美しさだ。あれ?ここは二次元か?
男性は私の前に立ち、『初めまして、公爵家当主のシルヴァート レイファンだ。…まだ本調子じゃ無いとは思うのだけれど、早急に確認したいことがあってね』と少し申し訳なさそうに言った。
男性は至極真面目な声色だったのだけれど、私の脳内はそれどころではなかった。多分今自己紹介をされたのだろうが、私の脳はその言葉を理解出来なかった。
なぜならばその圧倒的な外見の美しさの上になんと声まで美しかったからだ。いや、これは…艶っぽすぎる。
私の耳を通り、全身に柔らかく響くその低音は今まで経験した事のない感覚を私にもたらす。
その声の余韻にぼうっと浸っていた私は、男性の困った様な表情を見てハッとした。
「あ…すみません。えっと、私は栗栖來といいます」
急ぎ自己紹介をする私に、男性はなんだか少し驚いた様な表情をした。
その後、少し躊躇いながらも男性は私に問いかけた。
「…君はやはり君のままなんですね」
…?君のままとは一体どういう事だろう?困った。気になる言葉ではあるが、思わず呟いたという感じだったので安易に質問もできない。
その言葉の真意はわからないが、ある程度の確信を持った上での呟きな事だけはなんだか理解できた。
困った私は取り敢えず曖昧に笑っておいた。これは悪い癖だろう、けれど今はそんなことを言っている場合でも無いだろう。
そんな私の様子を見た男性は、顎に手を当てひとつ頷いた。何を納得したのかはわからないが、一先ず難は逃れた様だ。
「安心してお過ごしください。そうですね…この後侍女に來様のお部屋を案内させます」
何をどう安心すればいいのかはわからないが、神妙な顔をした男性を見て一つ頷いておくことにした。そして私の部屋とは何なんだ?そして急に名前呼び?うーん…聞かないけど気になる。
そして、気のせいで無ければ急に距離が縮まった様な?
…もしかすると私は誰かと勘違いされてないか?困った。これはこれで後から皆に『騙したな!』とか言われるんじゃ無いだろうか。いや、私は曖昧に笑っただけだ。そう言われた時にでも考えるとしよう。
私は問題を後回しにする悪い癖もある。この状況なら仕方がないよね?…多分。
男性が部屋を出ていき少し経った頃、私は部屋を移動させられた。
元に寝かされていた部屋も広くて綺麗だったのだが、移動した先の部屋はもっと広かった。
中央にある大きな寝台、左側にはドレッサー、右側には小さなテーブルにソファー。しかもソファーの後ろの壁にあるドアを開くと部屋と同じサイズの衣装部屋…。
「ど、ドレス沢山…」
その部屋のドアをなんとなく開けただけだったので、そこに溢れる色・色・色に唖然とした。私的には『トイレかな~?』とか考えていたので余計に驚いてしまった。
侍女がどうぞと私に言うので恐る恐る部屋に入ったのだが豪華すぎて怖い。シンプルなドレスから夜会にでも着てゆくような豪華なドレス、靴もいろいろな種類のいろいろな色の物が並べられていた。
一部箱が並べられてある場所があり、私は何の気なしにその箱を開けた。そこには見たことのない大きさの宝石が使われたピアスが二つ入っていて、私は驚きすぎて小さく悲鳴を上げた。すぐに片付けたけど、すごく怖かった…。
侍女がそんな私を見て微笑んでいたけど、私の笑顔は引き攣っていたと思う。
この部屋にいることが怖くなった私は一先ずベッドに戻り横になることにした。なんだかどっと疲れてしまった。
まだ少し痛む手足。…この手足が癒えたらちゃんと人違いだと話したほうがいい気がする。
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