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その男、白く

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リズが家へ入ると急いで2階へとかけ上がる。
寝室に飛び込むと、銀髪の青年は起き上がり窓辺から外を眺めていた。
差し込む太陽の光に髪が照らされ初めて見た瞳はグリーンで宝石のように瞬いていた。
白いシャツと白い肌に胸元の青い石のついたペンダントが優雅に揺れていた。
その美しさにリズは言葉を失って暫しみとれた。

「お前は、誰だ」

青年の太い声にリズははっとした。

「初めまして。私はリズ・ハーベット。…覚えてる?あなたが川に流されてたこと」

青年は押し黙り、眉をしかめた。

「…頭がも朦朧としてよく分からない。どんな状況か教えてくれないか」

リズはゆっくりと今までの経緯を説明した。
クリスの事を除いて。
病み上がりなのに余計な心配をかけたくないという判断だった。

男は黙ってリズの言葉を聞いていた。
リズが話し終わると、ゆっくりと数度頷いた。

「そうか。正直に言おう。俺は俺が誰か分からない。何故川に落ちたのかも。ーーしかし、誰かが俺の事を殺そうとしたのは事実らしい。君は役場に行ったというが、俺の事を話したのか?」

「いいえ」

リズの脳裏にクリスの顔が浮かんだ。彼が犯人だったら、役所に申告するのは危険だ。
役所は数多くの人間が働いている。
不審な人物がいるから、秘密裏に彼の身元を探したいと言ってもどこからか漏れるだろう。
警吏も崇高な意識を持った人間ばかりではない。
袖の下でムリが通ってしまう事もある。

「お願いだが、黙っててくれないか。誰かに狙われているのかも知れない。何があったか俺が思い出すまでは、ここで匿って欲しい」

青年の言葉に優しく笑い頷いた。
青年の不安を取り除くように。

「はい。心配しないで下さい。父も私もあなたを守りますよ。ええっと…」

名前を呼ぼうと言い淀むリズに初めて青年は笑みを見せた。

「名前がないというのは、不便だな。思い出すまではナナシとでも読んでくれ」

「ーーでは、ナナシさん。喉渇きませんか?お茶を入れてきますね」

この町で探すのは危険だ。
クリスの正体が分からない。
しかし、本当にここで長く匿うことも難しいとリズは感じていた。
エリーはとても人懐っこくおしゃべりだ。口止めもしていない。
青年の話が漏れるのも時間の問題だった。

川上にあるこの町の倍の大きさを誇るエルサリーはどうだろう。
豪商もいれば、貴族の別荘もある。
青年の服は上等な布地で刺繍も凝っていた。胸のペンダントは装飾が細かく、業物であることが分かる。
青年はその街の人間かも知れない。

リズはお茶を入れながら次の手を考えていた。
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