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「ミシェル、ほら口を開けて」
「もう、クリスったら。自分で食べられるってーーんっ。あ、美味しい」
午後のお茶の時間。僕の目の前では、ソファで二人ぴったりとくっついているクリス父さまとミシェル母さまがお互いにお菓子を食べさせ合っています。
両親の仲が良いのは嬉しいことです。
だけど、二人のいちゃいちゃを目にしても、今ひとつ心が浮き立たない僕はため息を吐きながら窓の外へ目を向けました。
そこではユーリとメイナードお兄さんが休憩時間を利用して軽く剣の手合わせをしています。
「……あっ」
「兄さん!」
メイナードお兄さんが芝生に足を取られふらつきます。
とっさにユーリがメイナードお兄さんの腕を取り、自分の方へ引き寄せます。
「兄さん、大丈夫?」
「ありがとうユーリ。ふふっ、それにしてもユーリに助けられるなんて、ユーリも大きくなったね。いつの間にか背も伸びて、すぐに追い越されそうだ」
抱き寄せられた状態でユーリの頭を撫でるメイナードお兄さん。
「もう、やめてよ。子どもじゃないんだから」
「俺にとっては、いくつになってもお前は可愛い弟だよ」
ユーリは口ではやめてと言いながら、頭を撫でるのをやめさせません。耳がちょっとだけ赤くなっているのがポイントです。
メイナードお兄さんは騎士としてわが家で働いています。ユーリにとって仲良しなお兄さんでありながら、仕事の上では頼れる先輩でもあります。
そして天然でちょっとドジっ子属性もあって、隠れた逸材です。
心温まる兄弟の触れ合い。実に素晴らしいーー素晴らしいのだけど、なぜか気分が晴れません。
「ニコル様、お茶のおかわりをお入れしましょうか?」
「マーシー」
「ミルクをたっぷりお入れしましょうね?」
気分が上がらないのをマーシーに気づかれてしまいました。さすがは僕の乳母です。
先日、ピンク頭さんの件でわが家を早朝突撃したアンソニー様。
どうやらピンク頭さんが僕に興味を持っているらしく、ストーカー化しつつあるということで、他にも学園でおイタをしているらしいピンク頭さんについてはアンソニー様預かりとなりました。
まあ、それはいいのです。
毎日のように届いていたお手紙が最近来なくなったのも、諸々忙しくなったので仕方がないとわかっています。
なので今朝、久しぶりにアンソニー様からお手紙と真っ赤な薔薇が一輪届いたのがちょっとだけ嬉しくて、ほんのちょっと浮かれていたのも本当です。
「お久しぶりです。ニコル様、こちら殿下からニコル様へお渡しするよう預かりました」
そう言ってわざわざお花とお手紙を届けてくれたのは、アンソニー様の側近のエドワードさん。
「お届けするのが殿下でなくて申し訳ないです」
「いえ、そんな。アンソニー様は忙しいので仕方がないです。ところで、その鉢植えは?」
「ああ、これですか? これは別件で届けるように言付かっているもので、さきほど手配したものですーー全く、こんなに素晴らしい婚約者様を放って……」
「エドワードさん?」
「あっ、すみません。これは学園に持って帰りますので。それでは私はこの辺で失礼いたします」
少し慌てた様子で黄色い花の鉢植えを持って帰ったエドワードさん。鉢植えは綺麗にラッピングされていたので、きっと誰かへのプレゼントなのでしょう。
誰に?
なんだろう、ちょっともやもやします。
そんなことがあってから、なぜか気分が上がらない僕。
最近、アンソニー様からの便りがなくなったのは、とうとう僕に飽きたのかな?
学園で歳の近い令息に魅力を感じたのかな?
魅力といえば……。
前世で読んだノーマルな恋愛ものだと、胸の大きな女の人がモテていたような。だけどここは女の人の存在しない世界です。
「あっ! もしかして」
ここでは胸の大きさではなくてナニの大きさが魅力の指針なのでは!?
はっと目を見開いた僕の背後に見えない雷が落ちました。まさに晴天の霹靂です。
「ニ、ニコ? どうかしたの?」
ミシェル母さまがなにか言っていますが、それどころではありません。
すぐさまズボンと下着の中を確認します。
そこにあるのはこの世に生を受けて九年、ようやく自分の一部と認められるようになった僕の分身。
しかし、残念なことに僕の理想とは遠くかけ離れたささやかなそれ。
「母さま……」
「ニコ!? 泣きそうな顔して、なにがあったの!?」
どうしよう。僕はこんなことで自分の気持ちを自覚してしまったようです。
前世では理解できなかったこの感情。
「ーーーーどうやったら、これを大きくできるのですか!?」
唖然とするクリス父さまとミシェル母さま。それに、あらあらと口に手をあてているマーシー。
だけど今はそんなことは気になりません。
どうやら僕はアンソニー様のことを好きになっていたみたいです。
「もう、クリスったら。自分で食べられるってーーんっ。あ、美味しい」
午後のお茶の時間。僕の目の前では、ソファで二人ぴったりとくっついているクリス父さまとミシェル母さまがお互いにお菓子を食べさせ合っています。
両親の仲が良いのは嬉しいことです。
だけど、二人のいちゃいちゃを目にしても、今ひとつ心が浮き立たない僕はため息を吐きながら窓の外へ目を向けました。
そこではユーリとメイナードお兄さんが休憩時間を利用して軽く剣の手合わせをしています。
「……あっ」
「兄さん!」
メイナードお兄さんが芝生に足を取られふらつきます。
とっさにユーリがメイナードお兄さんの腕を取り、自分の方へ引き寄せます。
「兄さん、大丈夫?」
「ありがとうユーリ。ふふっ、それにしてもユーリに助けられるなんて、ユーリも大きくなったね。いつの間にか背も伸びて、すぐに追い越されそうだ」
抱き寄せられた状態でユーリの頭を撫でるメイナードお兄さん。
「もう、やめてよ。子どもじゃないんだから」
「俺にとっては、いくつになってもお前は可愛い弟だよ」
ユーリは口ではやめてと言いながら、頭を撫でるのをやめさせません。耳がちょっとだけ赤くなっているのがポイントです。
メイナードお兄さんは騎士としてわが家で働いています。ユーリにとって仲良しなお兄さんでありながら、仕事の上では頼れる先輩でもあります。
そして天然でちょっとドジっ子属性もあって、隠れた逸材です。
心温まる兄弟の触れ合い。実に素晴らしいーー素晴らしいのだけど、なぜか気分が晴れません。
「ニコル様、お茶のおかわりをお入れしましょうか?」
「マーシー」
「ミルクをたっぷりお入れしましょうね?」
気分が上がらないのをマーシーに気づかれてしまいました。さすがは僕の乳母です。
先日、ピンク頭さんの件でわが家を早朝突撃したアンソニー様。
どうやらピンク頭さんが僕に興味を持っているらしく、ストーカー化しつつあるということで、他にも学園でおイタをしているらしいピンク頭さんについてはアンソニー様預かりとなりました。
まあ、それはいいのです。
毎日のように届いていたお手紙が最近来なくなったのも、諸々忙しくなったので仕方がないとわかっています。
なので今朝、久しぶりにアンソニー様からお手紙と真っ赤な薔薇が一輪届いたのがちょっとだけ嬉しくて、ほんのちょっと浮かれていたのも本当です。
「お久しぶりです。ニコル様、こちら殿下からニコル様へお渡しするよう預かりました」
そう言ってわざわざお花とお手紙を届けてくれたのは、アンソニー様の側近のエドワードさん。
「お届けするのが殿下でなくて申し訳ないです」
「いえ、そんな。アンソニー様は忙しいので仕方がないです。ところで、その鉢植えは?」
「ああ、これですか? これは別件で届けるように言付かっているもので、さきほど手配したものですーー全く、こんなに素晴らしい婚約者様を放って……」
「エドワードさん?」
「あっ、すみません。これは学園に持って帰りますので。それでは私はこの辺で失礼いたします」
少し慌てた様子で黄色い花の鉢植えを持って帰ったエドワードさん。鉢植えは綺麗にラッピングされていたので、きっと誰かへのプレゼントなのでしょう。
誰に?
なんだろう、ちょっともやもやします。
そんなことがあってから、なぜか気分が上がらない僕。
最近、アンソニー様からの便りがなくなったのは、とうとう僕に飽きたのかな?
学園で歳の近い令息に魅力を感じたのかな?
魅力といえば……。
前世で読んだノーマルな恋愛ものだと、胸の大きな女の人がモテていたような。だけどここは女の人の存在しない世界です。
「あっ! もしかして」
ここでは胸の大きさではなくてナニの大きさが魅力の指針なのでは!?
はっと目を見開いた僕の背後に見えない雷が落ちました。まさに晴天の霹靂です。
「ニ、ニコ? どうかしたの?」
ミシェル母さまがなにか言っていますが、それどころではありません。
すぐさまズボンと下着の中を確認します。
そこにあるのはこの世に生を受けて九年、ようやく自分の一部と認められるようになった僕の分身。
しかし、残念なことに僕の理想とは遠くかけ離れたささやかなそれ。
「母さま……」
「ニコ!? 泣きそうな顔して、なにがあったの!?」
どうしよう。僕はこんなことで自分の気持ちを自覚してしまったようです。
前世では理解できなかったこの感情。
「ーーーーどうやったら、これを大きくできるのですか!?」
唖然とするクリス父さまとミシェル母さま。それに、あらあらと口に手をあてているマーシー。
だけど今はそんなことは気になりません。
どうやら僕はアンソニー様のことを好きになっていたみたいです。
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