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19 魔法にかかった気持ち

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あの路地裏を出ると、私達は遊覧船に乗り込む。

あの黒い表情から切り替わり、いつも通りのミハイルに戻っていて、私は気持ちが追い付かないながらも遊覧船の景色を楽しむことにした。


ザザァーーー

見渡す海の青さに感動しながら、少し冷たい潮風を吸い込む。

「わぁ・・・海なんて久しぶりに見たよ」

「そうだね、僕達の故郷は森に囲まれていたし」

「ミハイルってさ、元の時の記憶や感情はあるの?」

「そうだね・・・僕自身なのには、変わりないから」

綺麗な横顔が、少し暗く俯く。海風が短くなったミハイルの銀髪を揺らし、日差しで反射する長いまつ毛はキラキラと輝いて見える。

「僕を見つめる時は、魔法がかかってるから、マールのことが好きなんだって顔をしているね」

隣で手を繋ぐ彼の横顔を眺めていたら、最近考えていたことを見透かされた。

「ふっ、そんな顔しないで。元の僕の時の記憶で君の好きなところを言うのはズルだから、今の僕が知ってるマールの好きなところは、美味しいものを食べるとすぐに笑顔になるところ、寝ている時も食べる夢を見ているのか口をよく動かしているところ、人と過ごすことは苦手なのにマールと一緒にいると心から楽しくなれるところ、あとはその茶色の綺麗な髪も、潤ってる緑色の瞳も好き。あとーーーー」

どんどん出てくる言葉に恥ずかしくなって、彼を止めようと繋いでいる手を引き寄せた。


「待って!これ以上は・・・」

「僕の好きな気持ち、少しは信じてくれた?」

どんな顔をしてミハイルを見ていいのか分からず、距離が近くなった彼から目を逸らす。


「マール」


顔に手を添えられると、紫の瞳に覗き込まれる。思わず昨日のプールでの事を思い出し、顔が熱くなるのを感じた。

顔に触れる親指が私の目の下を撫でる。

「あとマールの泣きぼくろが・・・好き、だな」

(魔法にかかってるから、じゃないの・・・?)

目の前にあるミハイルの顔にドキドキしながら、どこか寂しい気持ちが残った。


「船を降りたら、マールお土産買いたいんだよね。行こうか」

透き通るような彼の笑顔は、眩しくてまっすぐ見ることが出来なかった。


お土産を見終わり、一緒にレストランで夕食を食べながら明日以降の旅行の計画を立てる。

誰かとずっと過ごすことは初めてだが、今のミハイルといるのは居心地がいい。

あれだけ2週間の旅行に悩んでいたのに、今では明日の観光が楽しみになっている。

それは、きっと魔法がかかった彼のおかげなのだろう。あの幼なじみのミハイル・エンリーとは思えないほどに別人となった彼に微笑まれ、好きだと言われる度に、自分の気持ちは分からなくなってしまう。

このまま進んではいけないと、立ち止まるように心を悩ませていた。
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