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24 一緒に王宮へ ①
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2週間の旅行は思っていたよりもあっという間で、海や観光や買い物、色んな料理もたくさん食べられたし満足していた。
最後の方は部屋から出られなかったが、それもいい思い出としておく。
(プールも入れたしね・・・)
声を掛けられている気がしてぼんやりと目を開けると、紫色の瞳と目が合う。
「やっと起きたね、マール」
「ん・・・」
「今日から仕事だよ。朝食作ったから、支度が出来たら食卓においでね」
泣きぼくろに優しく唇を落とすと、ミハイルは部屋を出て行ってしまった。
(あれ・・・今日はこっちなんだ)
起きたら唇にされることに慣れてしまった私は、どこか寂しさを感じたがそれをかき消すように夫婦の寝室を出た。
支度を終えて食卓に来ると、そこには手の込んだ朝食が並んでいた。
「すごい・・・ミハイルが作ってくれたの?」
「さあ、座って。僕は料理するのが好きな方でね、マールに食べてもらうのが楽しみで今日は張り切ったんだ」
照れるように話す彼の言葉に思わず嬉しくなる。
「ありがとう・・・じゃあさっそく」
どれから手を付けるか迷ったが、目の前にあるオムレツをそっと口へ運ぶ。
「!!・・・美味しい!」
「そっか、良かった」
どんどん食べ進める私を眺めて、ミハイルは満足そうに笑うと一緒に食べ始める。
「料理上手なんだね、貴方の料理初めて食べたよ」
「元々の僕は自分の料理しか信用していなかったみたいだからね」
「今の貴方は?」
「マールがもし作ってくれるなら、僕は喜んで食べるよ」
「私全然料理できないよ・・・」
「じゃあ今度、僕と一緒に作ろう」
食べ終わると時間にはまだ余裕があり、彼が紅茶を入れてくれたので、ソファーで一緒に飲む。
「いつもだったらこの時間には王宮にいたんじゃない?今日は大丈夫なの?」
「そうだね・・・元の僕は職場に居すぎたんだよ。君とどう接していいのか分からなくて、職場に逃げていたんだ。でもこれからはマールと朝食を食べて、一緒に出勤するよ。あと帰りもね」
そうだ、とティーカップを置くとポケットから出てきた手のひら程の水晶を渡される。
「僕の研究室で使っている連絡用の水晶なんだけど、マールにあげるよ。水晶に魔力を流すと、この中に魔力を登録している相手を呼び出すことが出来るんだ」
「そんなに貴重なものいいの?」
水晶は魔力を保管できるためこの世界では貴重で、王宮でも扱える人は限られている。
「もちろん。あ、元の僕に戻ったとしても返さなくていいからね。帰る時は必ず使って。呼ばれても僕が一緒に帰れない日もあるかもしれないけど、マールが帰ったことを確認したいから気にせず使って欲しい。あと、何かあったら必ず僕を呼び出すこと」
私は手の中にある貴重な水晶を眺める。
「嬉しい、ありがとう」
素直に喜ぶと、ミハイルに大切そうに抱きしめられる。お返しに背中に腕をまわすと、あたたかな胸に顔を擦り寄せた。
(ミハイルもドキドキしてる)
******
2人で家を出て、初めて一緒に王宮へ向かう。
ミハイルが魔法にかかって別人のようになって、さらに私と一緒にいるなんて今日から注目の的になるな・・・なんて考えを読まれているみたいだった。
眉間に寄った皺を優しく撫でると、ミハイルは楽しそうに話し出す。
「夫婦揃って出勤してる人だってたくさんいるよ。マールが嫌だったら、後ろからついて行くだけ」
「それって一緒にいるのは変わらないじゃない・・・ミハイルってすごく目立つんだよ。大丈夫かな・・・」
私の心配をよそに、ミハイルは全く気にする様子がない。
「それより今日のお昼はどうする?」
「いつも通り食堂だと思うよ」
「サンドウィッチ用意したんだけど、良ければ僕の研究室で食べない?」
「いいの!ありがとう」
食べ物に釣られ即答してしまった。
「ふふっ僕の研究室来たこと無かったよね、お昼は迎えに行くよ」
「うーん・・・ありがとう」
功績を挙げた優秀な魔力使いは自分の研究室が与えられる。ミハイルがいる魔法研究室の方は入ったことがないので、渋々案内をお願いすることにした。
王宮の門をくぐると、ミハイルが誰かと一緒にいることが珍しく、案の定周囲の視線を一気に集めてどよめいている。
(やっぱりこうなると思った・・・歩きづらい)
ミハイルは周囲を気にすることなく、私の魔法支援室へ向かおうとするので慌てて声をかけた。
「ここで大丈夫だよ!貴方はあっちでしょ」
「送るよ。マールの上司は来ているかな?いたらご挨拶しておこう」
最後まで送ると譲らないミハイルはどんどん魔法支援室へ歩いていく。私がその場から歩き出さないので、振り返り甘い笑顔で手を差し出す。
「ほら、遅れるよ。手を繋がないと僕の隣を歩いてくれない?」
周りから黄色い声があがっているが私はそこから逃げるように、急いで歩き出す。
「大丈夫!!ほら行こう!」
ミハイルは王宮で1番の魔力持ちだ。色々噂はされているがやっぱり魔力持ちの憧れなのである。魔法支援室まで聞いたことないざわめきを通り抜け、なんとか部屋までたどり着いた。
とりあえず早く中に入って逃げたい。
「ありがとう・・・じゃあまたお昼に」
そそくさと部屋に入ろうとすると、やはり引き止められる。
「待って、もう上司の方は来ているの?」
挨拶するまで帰らない雰囲気に圧倒され、しぶしぶ部屋に入るとユリアさんを呼びに行く。
「おはようございます。あのー・・・朝からすいません。ユリアさんにご挨拶したいと廊下に」
「わかったわ」
ユリアさんは朝から急いでるみたいで最後まで聞かずに廊下まで出ると固まっていた。
「おはようございます。魔法研究室所属のミハイル・エンリーです。妻がいつもお世話になっております。これからもマールのことをよろしくお願いします」
「え、ええ・・・」
「それでは失礼します」
ユリアさん越しに部屋の奥にいる男性職員をチラリと睨みつけたかのように見えると、ミハイルは私に手を振って消えていった。
最後の方は部屋から出られなかったが、それもいい思い出としておく。
(プールも入れたしね・・・)
声を掛けられている気がしてぼんやりと目を開けると、紫色の瞳と目が合う。
「やっと起きたね、マール」
「ん・・・」
「今日から仕事だよ。朝食作ったから、支度が出来たら食卓においでね」
泣きぼくろに優しく唇を落とすと、ミハイルは部屋を出て行ってしまった。
(あれ・・・今日はこっちなんだ)
起きたら唇にされることに慣れてしまった私は、どこか寂しさを感じたがそれをかき消すように夫婦の寝室を出た。
支度を終えて食卓に来ると、そこには手の込んだ朝食が並んでいた。
「すごい・・・ミハイルが作ってくれたの?」
「さあ、座って。僕は料理するのが好きな方でね、マールに食べてもらうのが楽しみで今日は張り切ったんだ」
照れるように話す彼の言葉に思わず嬉しくなる。
「ありがとう・・・じゃあさっそく」
どれから手を付けるか迷ったが、目の前にあるオムレツをそっと口へ運ぶ。
「!!・・・美味しい!」
「そっか、良かった」
どんどん食べ進める私を眺めて、ミハイルは満足そうに笑うと一緒に食べ始める。
「料理上手なんだね、貴方の料理初めて食べたよ」
「元々の僕は自分の料理しか信用していなかったみたいだからね」
「今の貴方は?」
「マールがもし作ってくれるなら、僕は喜んで食べるよ」
「私全然料理できないよ・・・」
「じゃあ今度、僕と一緒に作ろう」
食べ終わると時間にはまだ余裕があり、彼が紅茶を入れてくれたので、ソファーで一緒に飲む。
「いつもだったらこの時間には王宮にいたんじゃない?今日は大丈夫なの?」
「そうだね・・・元の僕は職場に居すぎたんだよ。君とどう接していいのか分からなくて、職場に逃げていたんだ。でもこれからはマールと朝食を食べて、一緒に出勤するよ。あと帰りもね」
そうだ、とティーカップを置くとポケットから出てきた手のひら程の水晶を渡される。
「僕の研究室で使っている連絡用の水晶なんだけど、マールにあげるよ。水晶に魔力を流すと、この中に魔力を登録している相手を呼び出すことが出来るんだ」
「そんなに貴重なものいいの?」
水晶は魔力を保管できるためこの世界では貴重で、王宮でも扱える人は限られている。
「もちろん。あ、元の僕に戻ったとしても返さなくていいからね。帰る時は必ず使って。呼ばれても僕が一緒に帰れない日もあるかもしれないけど、マールが帰ったことを確認したいから気にせず使って欲しい。あと、何かあったら必ず僕を呼び出すこと」
私は手の中にある貴重な水晶を眺める。
「嬉しい、ありがとう」
素直に喜ぶと、ミハイルに大切そうに抱きしめられる。お返しに背中に腕をまわすと、あたたかな胸に顔を擦り寄せた。
(ミハイルもドキドキしてる)
******
2人で家を出て、初めて一緒に王宮へ向かう。
ミハイルが魔法にかかって別人のようになって、さらに私と一緒にいるなんて今日から注目の的になるな・・・なんて考えを読まれているみたいだった。
眉間に寄った皺を優しく撫でると、ミハイルは楽しそうに話し出す。
「夫婦揃って出勤してる人だってたくさんいるよ。マールが嫌だったら、後ろからついて行くだけ」
「それって一緒にいるのは変わらないじゃない・・・ミハイルってすごく目立つんだよ。大丈夫かな・・・」
私の心配をよそに、ミハイルは全く気にする様子がない。
「それより今日のお昼はどうする?」
「いつも通り食堂だと思うよ」
「サンドウィッチ用意したんだけど、良ければ僕の研究室で食べない?」
「いいの!ありがとう」
食べ物に釣られ即答してしまった。
「ふふっ僕の研究室来たこと無かったよね、お昼は迎えに行くよ」
「うーん・・・ありがとう」
功績を挙げた優秀な魔力使いは自分の研究室が与えられる。ミハイルがいる魔法研究室の方は入ったことがないので、渋々案内をお願いすることにした。
王宮の門をくぐると、ミハイルが誰かと一緒にいることが珍しく、案の定周囲の視線を一気に集めてどよめいている。
(やっぱりこうなると思った・・・歩きづらい)
ミハイルは周囲を気にすることなく、私の魔法支援室へ向かおうとするので慌てて声をかけた。
「ここで大丈夫だよ!貴方はあっちでしょ」
「送るよ。マールの上司は来ているかな?いたらご挨拶しておこう」
最後まで送ると譲らないミハイルはどんどん魔法支援室へ歩いていく。私がその場から歩き出さないので、振り返り甘い笑顔で手を差し出す。
「ほら、遅れるよ。手を繋がないと僕の隣を歩いてくれない?」
周りから黄色い声があがっているが私はそこから逃げるように、急いで歩き出す。
「大丈夫!!ほら行こう!」
ミハイルは王宮で1番の魔力持ちだ。色々噂はされているがやっぱり魔力持ちの憧れなのである。魔法支援室まで聞いたことないざわめきを通り抜け、なんとか部屋までたどり着いた。
とりあえず早く中に入って逃げたい。
「ありがとう・・・じゃあまたお昼に」
そそくさと部屋に入ろうとすると、やはり引き止められる。
「待って、もう上司の方は来ているの?」
挨拶するまで帰らない雰囲気に圧倒され、しぶしぶ部屋に入るとユリアさんを呼びに行く。
「おはようございます。あのー・・・朝からすいません。ユリアさんにご挨拶したいと廊下に」
「わかったわ」
ユリアさんは朝から急いでるみたいで最後まで聞かずに廊下まで出ると固まっていた。
「おはようございます。魔法研究室所属のミハイル・エンリーです。妻がいつもお世話になっております。これからもマールのことをよろしくお願いします」
「え、ええ・・・」
「それでは失礼します」
ユリアさん越しに部屋の奥にいる男性職員をチラリと睨みつけたかのように見えると、ミハイルは私に手を振って消えていった。
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