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50 指輪
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翌朝、結局何度か目覚めてしまい全然眠れなかった体を起こすと、身に染み付いてしまった食卓に向かうために部屋を出ていた。
(あ、ミハイルの朝食・・・もう食べられないのに)
元のミハイルは私と時間をずらして生活しているため、もうこの時間には家にはいないはずの彼が食卓で食事をしていた。
私の姿を確認するなり、作りすぎたと言ってキッチンに朝食が置かれていた。
「食べるのだったら君も持ってきて食べるといい」
1階に降りると言われたまま、食卓に持ってきて食べる。
「この時間、もう王宮にいるはずじゃ・・・」
「ああ、お互い話す時間がいるのだろう?」
「別に朝の時間までは・・・まあ、朝食ありがとう」
「体が勝手に2人分作っていた。以前の僕も作っていたのだろうな」
「・・・っ、そんなことも、あるんだね・・・」
「またそんな顔をして仕事に行くのか、迷惑かけるぞ」
ちゃんと寝ないとと話し続ける彼にうんざりとした顔を上げると、向こうも眠れていなさそうな顔つきをしていた。
「自分も同じような顔してるじゃない」
「なっ・・・ここ数日、魔法が解けてやっと元の自分に戻った興奮で眠れなかったんだ!別に君のことを気にしていた訳ではない」
「ああ、うん」
目の合った私の顔をじっと眺めている視線に気まずくなり、また食事に集中する。
食べ終えると、出勤する準備をしていた。
昨日のピンクの可愛らしいピアスが見えるように、ハーフアップにする。ミハイルがヘアセットをしてくれた時はもっと凝っていたが、今日からは自分で簡単にまとめる。
(今日の王宮では魔法が解けたミハイルの話題で持ちきりね)
いつも通りの時間に部屋を出ると、ミハイルが立っていた。
「はあ、毎回ビックリするんだけど」
「女性の部屋にどう声をかけていいのか分からない」
「用事があるんだったらノックしてくれたらいいよ。それより先に行かなくていいの?」
「どうせ同じ方向だ。出勤する時間も話せるだろう」
一緒に出勤するつもりだとは思わず、目を丸める。
「もしかして一緒に行くの・・・?」
「ふっ、嫌そうだな」
「まあね、注目の的になるから」
戸惑いながらも、とりあえず出発することにする。
(ミハイルと一緒に家を出て王宮に向かうなんて、もう無いと思っていた・・・)
隣に歩く幼なじみに話しかける。
「今日は職場に行ったら、みんなびっくりするんじゃない」
「そうだな、そんなに魔法にかかっていた僕は魅力的なのか?」
「・・・・・・」
「なるほど」
「何も、言ってないじゃない・・・」
「君の表情を見るだけでわかるようになってきた」
(アルノーにも同じこと言われたな。そんなに私ってわかりやすいの・・・?)
王宮の門が見えて来た時に、ふと思い出す。
「そういえば、昨日借りてた指輪返すね」
私はポケットから取り出すと、彼に手渡した。
ミハイルは立ち止まってしまったので、私も後ろに下がる。
「これは・・・君が持っておけ」
手を取られ、今日は薬指にはめられた。
「外すなよ」
「えー・・・」
顔が赤くなった彼はスタスタと歩き出して、王宮の門に入ってしまった。
「今日はここまでだなあ」
ミハイルと話す任務は終わったと胸を下ろし、魔法支援室に向かう。
(今度はアルノーだね・・・)
職場に向かう途中で至る所からミハイルの魔法が解けた話で持ち切りになり、どっちの彼が好きだったかで話題になっていた。
「おはようございます」
一斉に注目が集まる。
(そらそうだ・・・みんな興味あるよね)
私は気にせず、自分の席に着くがみんなが話しかけたそうにソワソワしている。
ユリアさんがピシャリと声を上げた。
「みんな、おはよう。浮き足立ってるみたいだけど、今日も忙しいのよ。それに魔法支援室のみんなは、こんな時こそ周りと同じように流されるんじゃなくて、自分の仲間を守ることができる人達だと思っているわ」
ユリアさんのカッコよすぎる言葉に、涙が出そうになった。
そこからみんなの意識が変わったのか、その話題が私の耳に入らないように色々仕事を配慮してくれる。みんないつも通りに接してくれて助かっていた。
(私は本当にここで働くことができて良かったな・・・)
「先輩、半分手伝うっすよ。これが終わったら、食堂の人が少なくなる時間だと思うんで久しぶりに行きません?」
アルノーもいつも通りに接してくれる。
「そうだね、ありがとう」
アルノーの言う通り、食堂の人は少なく落ち着いていた。食堂にも久々来れたので、つい嬉しくなる。
「マールちゃん、最近顔見かけないから心配したんだよ。今日は何にする?」
「おばちゃん・・・ありがとう。今日はA定食で」
いつものようにアルノーの向かいの席に座る。
「先輩、このおかず好きっすよね。交換しましょ」
「うん」
アルノーと食堂に行くと、私が好きな料理の時は、よく定食のおかずを交換してくれる。もう当たり前になっていたが、彼の優しさだったのだと気付く。
「食べないんすか?」
「私は・・・人に恵まれているなあって思って」
「そうっすね、それは先輩がちゃんと周りに思いやりを持って接してるからだと思いますよ。恵まれていると思えるのはその結果です」
「すごい、ちゃんと見られてたんだ」
「そりゃそうっすよ・・・」
アルノーとじっと目が合う。
(いつも通りの態度で接してくれるから、すっかり告白されたこと忘れてたな・・・)
「先輩にそんな顔させたい訳じゃないんで。いつも通り、ありのままでいてください」
「・・・うん」
(アルノーに返事しないといけないよね・・・)
悩んでいたのにおばちゃんの定食を久しぶりに食べていると、いつの間にか笑顔になってた。
「やっぱり美味しいなあ~」
「ふっ・・・」
アルノーも嬉しそうに食べていたので、安心した。
(あ、ミハイルの朝食・・・もう食べられないのに)
元のミハイルは私と時間をずらして生活しているため、もうこの時間には家にはいないはずの彼が食卓で食事をしていた。
私の姿を確認するなり、作りすぎたと言ってキッチンに朝食が置かれていた。
「食べるのだったら君も持ってきて食べるといい」
1階に降りると言われたまま、食卓に持ってきて食べる。
「この時間、もう王宮にいるはずじゃ・・・」
「ああ、お互い話す時間がいるのだろう?」
「別に朝の時間までは・・・まあ、朝食ありがとう」
「体が勝手に2人分作っていた。以前の僕も作っていたのだろうな」
「・・・っ、そんなことも、あるんだね・・・」
「またそんな顔をして仕事に行くのか、迷惑かけるぞ」
ちゃんと寝ないとと話し続ける彼にうんざりとした顔を上げると、向こうも眠れていなさそうな顔つきをしていた。
「自分も同じような顔してるじゃない」
「なっ・・・ここ数日、魔法が解けてやっと元の自分に戻った興奮で眠れなかったんだ!別に君のことを気にしていた訳ではない」
「ああ、うん」
目の合った私の顔をじっと眺めている視線に気まずくなり、また食事に集中する。
食べ終えると、出勤する準備をしていた。
昨日のピンクの可愛らしいピアスが見えるように、ハーフアップにする。ミハイルがヘアセットをしてくれた時はもっと凝っていたが、今日からは自分で簡単にまとめる。
(今日の王宮では魔法が解けたミハイルの話題で持ちきりね)
いつも通りの時間に部屋を出ると、ミハイルが立っていた。
「はあ、毎回ビックリするんだけど」
「女性の部屋にどう声をかけていいのか分からない」
「用事があるんだったらノックしてくれたらいいよ。それより先に行かなくていいの?」
「どうせ同じ方向だ。出勤する時間も話せるだろう」
一緒に出勤するつもりだとは思わず、目を丸める。
「もしかして一緒に行くの・・・?」
「ふっ、嫌そうだな」
「まあね、注目の的になるから」
戸惑いながらも、とりあえず出発することにする。
(ミハイルと一緒に家を出て王宮に向かうなんて、もう無いと思っていた・・・)
隣に歩く幼なじみに話しかける。
「今日は職場に行ったら、みんなびっくりするんじゃない」
「そうだな、そんなに魔法にかかっていた僕は魅力的なのか?」
「・・・・・・」
「なるほど」
「何も、言ってないじゃない・・・」
「君の表情を見るだけでわかるようになってきた」
(アルノーにも同じこと言われたな。そんなに私ってわかりやすいの・・・?)
王宮の門が見えて来た時に、ふと思い出す。
「そういえば、昨日借りてた指輪返すね」
私はポケットから取り出すと、彼に手渡した。
ミハイルは立ち止まってしまったので、私も後ろに下がる。
「これは・・・君が持っておけ」
手を取られ、今日は薬指にはめられた。
「外すなよ」
「えー・・・」
顔が赤くなった彼はスタスタと歩き出して、王宮の門に入ってしまった。
「今日はここまでだなあ」
ミハイルと話す任務は終わったと胸を下ろし、魔法支援室に向かう。
(今度はアルノーだね・・・)
職場に向かう途中で至る所からミハイルの魔法が解けた話で持ち切りになり、どっちの彼が好きだったかで話題になっていた。
「おはようございます」
一斉に注目が集まる。
(そらそうだ・・・みんな興味あるよね)
私は気にせず、自分の席に着くがみんなが話しかけたそうにソワソワしている。
ユリアさんがピシャリと声を上げた。
「みんな、おはよう。浮き足立ってるみたいだけど、今日も忙しいのよ。それに魔法支援室のみんなは、こんな時こそ周りと同じように流されるんじゃなくて、自分の仲間を守ることができる人達だと思っているわ」
ユリアさんのカッコよすぎる言葉に、涙が出そうになった。
そこからみんなの意識が変わったのか、その話題が私の耳に入らないように色々仕事を配慮してくれる。みんないつも通りに接してくれて助かっていた。
(私は本当にここで働くことができて良かったな・・・)
「先輩、半分手伝うっすよ。これが終わったら、食堂の人が少なくなる時間だと思うんで久しぶりに行きません?」
アルノーもいつも通りに接してくれる。
「そうだね、ありがとう」
アルノーの言う通り、食堂の人は少なく落ち着いていた。食堂にも久々来れたので、つい嬉しくなる。
「マールちゃん、最近顔見かけないから心配したんだよ。今日は何にする?」
「おばちゃん・・・ありがとう。今日はA定食で」
いつものようにアルノーの向かいの席に座る。
「先輩、このおかず好きっすよね。交換しましょ」
「うん」
アルノーと食堂に行くと、私が好きな料理の時は、よく定食のおかずを交換してくれる。もう当たり前になっていたが、彼の優しさだったのだと気付く。
「食べないんすか?」
「私は・・・人に恵まれているなあって思って」
「そうっすね、それは先輩がちゃんと周りに思いやりを持って接してるからだと思いますよ。恵まれていると思えるのはその結果です」
「すごい、ちゃんと見られてたんだ」
「そりゃそうっすよ・・・」
アルノーとじっと目が合う。
(いつも通りの態度で接してくれるから、すっかり告白されたこと忘れてたな・・・)
「先輩にそんな顔させたい訳じゃないんで。いつも通り、ありのままでいてください」
「・・・うん」
(アルノーに返事しないといけないよね・・・)
悩んでいたのにおばちゃんの定食を久しぶりに食べていると、いつの間にか笑顔になってた。
「やっぱり美味しいなあ~」
「ふっ・・・」
アルノーも嬉しそうに食べていたので、安心した。
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