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11 送り雀と狼
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しおりを挟む道はやがて、ゆるやかなのぼりになった。
民家が見あたらない。
深い。深い。山の谷間の道だ。
ウォーン……。
かすかな音がした。
なんだろう。長くのびる澄んだ音。
かなしいような、懐かしいような……。
と、思った瞬間、耳のすぐ横で、「ウォーン 」と吠えた。
「わっ!? 」
両手で両耳をふさぐ。
「い、今のなんだっ!? 」
反対の窓ぎわで、早矢も目を見開いて、腰をうかせている。
餓鬼阿弥が、わたしの肩からゆっくりと頭を持ちあげた。
「……ぉぉかみの……と、ぉぼぇだ」
「狼っ!? 」
ウォーン! ウォーン! ウォォォォーンっ!!
とたんに、耳元に大音量で遠吠えがひびいて、鼓膜がビリビリとしびれた。
前のほうの席で、乗客の夫婦は、あいかわらず楽しそうに笑いあっている。運転手はもくもくとバスを走らせている。
みんなにはきこえてない!
それじゃ、この遠吠えの主は……霊……っ!?
ぐる……ぐるるる……。
背中が、火を噴いたように熱くなった。
背中の狼が、頭を持ちあげた気配がする。
まさか、仲間が呼んでるの……っ!?
頭の中が麻痺していく。
ウォーン! ウォーン! ウォォォォーンっ!!
遠吠えが、心をわきたてる。
なんだろう、これ……?
低く。太く。冷たく。「夜」という現象を、音であらわしたような。
巨大な闇の懐に、深く、深く、もぐっていくような。
「わたし」という存在が、そこから生まれて、また帰る場所――。
行かなきゃ……。
宝君の手をにぎる自分の手から、力が抜けた。
わたしは降車ボタンを押して、バスをとめていた。
「香……蘭ちゃ、んっ!」
ふり向くと、餓鬼阿弥と目が合った。
おいていけない……。
ミイラのような腕をぐいっと引きあげて、餓鬼阿弥を背負う。
後部座席から立ちあがり、バス内の通路を歩いて、開いた前のドアからバスをおりる。
「おい、香蘭っ!? ま、待てってば!」
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「か、蘭ちゃん……。どうし、ちゃったの……?」
わからない。
自分の手が自分の手ではないようだ。
自分の足が、自分の足ではないようだ。
胸の中に、別のだれかの感情が入り込んできて、大きくなってふくれあがる。
……だれか……?
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