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 それから毎日、夜になるたびに、回し車の音がしました。
 だけど、もねは、そのことを、パパにもママにも話しませんでした。
 話したとたんに、チュピちゃんの回し車の音が、消えてしまいそうな気がしたからです。

 もねは毎日、チュピちゃんの回し車の音をきいて、ねむりました。



 八月十五日になりました。

 五時になると、マンションの下の公園で、ぼんおどりがはじまりました。
 町内会の夏まつりです。東京おんどや、ドラえもんおんどが、もねの部屋にまできこえてきます。

――もねちゃん、やくそくね。十五日の五時半に、大沢のなんでも屋さんの前でね――

 みのりちゃんの言葉を思いだして、もねはゴクンとつばをのみました。

 ホタルまつりには、チュピちゃんのゲージをもって行かなければなりません。

(だけど……ゲージをもって行っちゃったら、本当にチュピちゃんとおわかれのような気がする……)

 むねのおくから、もやもやがのぼってきます。

「チュピちゃんは、ホタルまつりに行きたい?」

 もねは、からのゲージに語りかけました。
 外のぼんおどりの音がうるさくて、ゲージの中からは何もきこえません。

 せなかでガチャリとドアがあきました。
 ビクッとしてふりかえると、ママが立っていました。

「もね、ぼんおどりに行こうか?」

 ママは、むりやり、にっこりとしているようです。最近、もねを見ると、ママはこんなふうに笑ってばかりいます。

「……うん」

 もねは、ゆっくりとうなずきました。

 ぼんおどりに行ってしまえば、みのりちゃんとのやくそくを守れなくなります。
 だけど、チュピちゃんのゲージは、ずっとこのままです。

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