ナイショの妖精さん

くまの広珠

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4 黒い妖精の黒いワナ

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「綾、ちょっと冷静になれ! 今は、オレたちが、こんな無意味な争いしてる場合じゃねぇだろっ!? 」


 お昼休みにトイレに行こうとしたら、ヨウちゃんに腕をつかまれた。


「お願いだから、話くらいはさせてくれ! おまえが休みの間に、オレなりにいろいろあったんだよ! 綾が、オレんちに来るのをとめられてんなら、学校で言うしかないだろっ!?」


 ヨウちゃん、捨てられる寸前の子犬みたいな涙目。

 だけど、あたしは「かわいそう」って気持ちを、胸に押しもどして、ヨウちゃんの手をふりはらった。


「や、ヤダっ! そんなこと言って、ヨウちゃん! ハサミ隠し持ってて、あたしがゆだんしたすきに、羽チョッキンするかもしれないじゃんっ!! 」


 休み時間が来るたびに、あたしをガードしてくれていた真央ちゃんと有香ちゃんは、今、給食当番で、食器を給食室まで返却中。

 だから、あたしからヨウちゃんを遠ざけてくれる人はいない。


「おまえなっ! 出してもない羽を、オレがどうやって、チョン切れるんだよ! わかった、ほら、見ろっ!!  両手、なんも持ってねぇだろ? ポケットも! ほら、なんにも入ってないっ!」


「手でむしられるかもしれないもん~」


 ギャーギャー言い合ってたら、リンちゃんと青森さんが階段をのぼってきた。


「あ……私立の試験、終わったんだ……」


 あたしの視線に気づいて、ヨウちゃんもふり返る。

 いつもの冷めた顔にもどって、背筋をのばして、ジーンズのポケットに両手をつっこんで。


「倉橋、青森、おつかれ」


 青森さんが顔をあげた。りりしい眉毛をあげて、にっこり。


「ただいま、中条君」


 だけどその横を、リンちゃんがすり抜けた。


 ……あれ……?


 うつむいたまま、大またで歩いて、ひとりで教室の中に入っていく。


「り、リンちゃん……どうしちゃったの……?」


 だって、あのリンちゃんが、ヨウちゃんを無視するなんて……。


「あの……中条君たち、ちょっと……」


 見たら、青森さんが、掃除ロッカーの横で手招きしていた。


「あのね……リン、試験落ちちゃったの。だから当分、リンの前で、試験の話するのは、やめてあげて。とくに、和泉さん」


 グサっ。ようするに、青森さんと窪のときみたいにならないか心配ってこと……。


「い、言わないよ~。でも……リンちゃん、頭イイのに落ちるなんて、どうして……?」


「試験、そうとうむずかしかったのか。青森は? どうだった?」


 青森さん、ふせ目がちでピースサイン。


「ウソっ  受かったのっ! すごいじゃんっ!! 」


「うちのクラスだと、あと受かったのは智士君と、佐伯さんと、菊池さんだよ」


「ほぼ、半数か。よかったな、青森。これで、はれて窪と同じ中学に進学できるな」



「――あれ? 葉児たち?」


 廊下の先を見たら、窪も階段をのぼってきていた。


「智士君!」


「窪、試験のこときいたぞ。やったな!」


「おめでとう~」


「ははっ。葉児たちカップルに言われると、なんか照れるな」


 窪、後ろ頭をかいて、照れ笑いしながら、こっちに歩いてくる。青森さんの横で立ちどまったと思ったら、その左腕に、青森さんの右腕が、するっとからんだ。


 わ……今の自然……。


 窪も、前みたいに青森さんをつきはなしたりはしない。ちょっとほおを赤らめて、青森さんを見おろしただけで、堂々とその腕を受け入れてる。


 チラッと、自分の右腕を見おろしたら、すぐ右にヨウちゃんの左腕。


 ぶらりとたれさがったまんま。

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