245 / 646
2 もうひとつのカップル
8
しおりを挟む「あはは。葉児ってば、そんな警戒しないでも、オレ、和泉になんもしないよ? だいたい、ラブラブ期のカップルなんかに手ぇ出したって、玉砕するに決まってんでしょ! オレはかしこいからね。ヘタなことはしないの。時期をうかがって、葉児のすきをつくんだよっ!」
「誠。その作戦、言っちゃってる時点で、かしこくないから」
真央ちゃん、お腹を抱えて、ゲラゲラ。
だけど、ヨウちゃんは眉間のシワを険しくして、無言でさらに、あたしの肩を、誠から引きはなした。
そっか。やっぱり、誠ってかしこいや。
わざと言っちゃうことによって、ヨウちゃんに、すきをつくれなくしてる。
つまり、ヨウちゃんは、誠に手を出されないように、ずっと気を張ってなきゃならなくなったってこと。
「……ねぇ、そんな心配しないでも、だいじょうぶだよ?」
あたしは、モッズコートのそでぐちを、つっと引いた。
そしたらやっと、ヨウちゃんの腕があたしの肩をはなした。
かわりに、ポンって頭にのっかる、大きな手のひら。
「ほ、ほぇっ!? 」
目をつぶって、また開けたら。モッズコートの背中はもう、自分の席へ歩き出してる。
ヨウちゃん、学校では、クールなフリ。
ビビリなことも、フェアリー・ドクターだってことも、みんなにはナイショ。
休み時間。教室がざわついている。
「中条君が本読んでる……」
女子たちはみんな、ほっぺたを赤く染めて、チラチラ、一番後ろの席をふり返ってる。
そこにはヨウちゃんが座っていて、有香ちゃんみたいな黒縁メガネをかけて、左手でほおづえをついていた。
右手に持っているのは、本。
チョコレート色のブックカバーらしきものがかかった、辞書みたいにがっしりと厚い本。
ヨウちゃんって、ふだんの休み時間は、リンちゃんたち女子の取り巻きにかこまれているか。誠や大岩たちと、校庭にサッカーをしに行っているか。
学校で、本を開いたことなんてなかったのに。
「やだぁ~! メガネ男子の中条君も、カッコイイ~」
「ギャップ萌え~」
リンちゃんも青森さんも、ヨウちゃんの誘惑に負けて、参考書の前から立ちあがっちゃってる。
「ふ~ん。中条って、メガネかけるんだ。あいつって、視力悪かったっけ?」
「ダテでしょ? あたし、ヨウちゃんがメガネかけてるとこなんて、見たことないもん」
「そういえばたしか、あの人、昔、自分は両目視力2.0だって、教室で自慢してたよね」
あたしと有香ちゃんは、廊下側の真央ちゃんの席をとりかこんで、いつもどおりのまったりタイム。
それにしても、騒ぐ意味、わかんないなぁ~。
あたしは、本を読むヨウちゃんなんて、見慣れてるしさ。
髪の毛、琥珀色なのに、黒縁メガネなんかかけちゃったら、インテリきどってるチャラ男にしか見えない……。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
たぬき
くまの広珠
児童書・童話
あの日、空は青くて、石段はどこまでも続いている気がした――
漁村に移住してきたぼくは、となりのおばあさんから「たぬきの子が出る」という話をきかされる。
小学生が読める、ほんのりと怖いお話です。
エブリスタにも投稿しました。
*この物語はフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。
がきあみ ―閻魔大王がわたしたちに運命のいたずらをした―
くまの広珠
児童書・童話
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」
クラスメイトの宝君は、告白してくれた直後に、わたしの前から姿を消した。
「有若宝なんてヤツ、知らねぇし」
誰も宝君を、覚えていない。
そして、土車に乗ったミイラがあらわれた……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『小栗判官』をご存知ですか?
説経節としても有名な、紀州、熊野古道にまつわる伝説です。
『小栗判官』には色々な筋の話が伝わっていますが、そのひとつをオマージュしてファンタジーをつくりました。
主人公は小学六年生――。
*エブリスタにも投稿しています。
*小学生にも理解できる表現を目指しています。
*話の性質上、実在する地名や史跡が出てきますが、すべてフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。
月神山の不気味な洋館
ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?!
満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。
話は昼間にさかのぼる。
両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。
その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
おねしょゆうれい
ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。
※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。
箱庭の少女と永遠の夜
藍沢紗夜
児童書・童話
夜だけが、その少女の世界の全てだった。
その少女は、日が沈み空が紺碧に染まっていく頃に目を覚ます。孤独な少女はその箱庭で、草花や星月を愛で暮らしていた。歌い、祈りを捧げながら。しかし夜を愛した少女は、夜には愛されていなかった……。
すべての孤独な夜に贈る、一人の少女と夜のおはなし。
ノベルアップ+、カクヨムでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる