ナイショの妖精さん

くまの広珠

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「ち、ちがうよっ!?  いっしょに、陶芸教室に行っただけだよっ!」

「だからっ! 男女が、ふたりでそういうとこに行くのを、デートって言うんじゃないのかっ!? 」

「なんでよっ!?  そんなこと言ったら、ヨウちゃんとこうやって歩いてる今だって、デートのうちに入るんじゃないの? でも、ちがうでしょ?」


 うわ……言うんじゃなかった。


 木枯らしが、あたしたちの腕の間を吹きぬけていく。


「……ちがうな」


 ヨウちゃんの左手が、あたしの右手をはなした。


 手、寒い……。


「ほら、ちがうじゃんっ! 誠とだって同じだよ」


「同じじゃねぇよっ!! 」


「同じだって。なんでそんなに、ムキになってるの? ヨウちゃんだって、有香ちゃんを家に呼んでたくせにっ! なにアレっ! ダブルブッキングっ!?  サイテーっ!! 」


 ヤダっ! あたしってば、なに言っちゃってんのっ!?

 有香ちゃんとヨウちゃんのこと、ヨウちゃんの口からききたくないのにっ!


「おまえなっ!!  永井はっ!」


「いいっ! 言わないでっ!! 」


「はぁ~っ !?」



 遊歩道の横の木々が切れて、深緑色の草っ原が姿をあらわした。

 まるで、山の上に、ぽっかり開いたミステリーサークル。

 冷たい風にそよいでいるのは、ヒースっていう、ヨーロッパにはえる雑草。

 あたしは、ザクザク、ヒースの茂みを踏んで、走る。


「待てよ、綾! ちゃんと、人の話きけよ!」


「ヤダっ!」


 だって、きいたら、本格的にフラれちゃう。

「これ以上はもう、つきまとうな」って、言われちゃう。


 わかってる。


 おかしいのは、あたし。


 二度もフラれてるのに、つきまとってるあたし……。



 茂みの奥に、砲弾倉庫跡が近づいてきた。

 赤レンガ造りの壁。横にならぶ同じ形のアーチの入り口。戦争中は、弾薬をしまっておく倉庫だったんだって。

 妖精は、よくここにあつまってくる。

 だけど、きょうも部屋の中はからっぽ。しんと、冷たい空気が支配してるだけ。


「……ったく。おまえは~……」


 あとから、倉庫に入ってきたヨウちゃんが、肩で息をついた。


「どんだけ、オレをふりまわせば気がすむんだよ~……」


 グサッと、言葉が胸にささる。


 だけど、ヨウちゃん、それ以上話すのをあきらめたみたい。

 部屋の入り口にしゃがみこんで、ウインドブレーカーのポケットから小皿を出すと、ゆかに置いた。

 小ビンのコルクを抜いて。アルミの小皿に、中身をサラサラともりつけていく。

 細かく刻まれた、虹色にかがやく三種類の枝。


「これが、妖精を呼び寄せるお香なの?」


「……ああ。オークとホーソンとアッシュの枝。正確な比率で混ぜ合わせた」


 虹色なのは、フェアリー・ドクターの魔法がかかっているあかし。


「燃やすと、煙の香りで妖精があつまってくる」


 ヨウちゃんは、ポケットから、ライターも取り出した。

 カチッと、火を灯して、虹色の小枝に近づける。


「ねぇ、火遊びって、子どもだけでしちゃダメなんだよね?」


「だな。おまえは、ぜったいするんじゃねぇぞ」


 って、そっちだって、子どもじゃん!


 ぷうってほっぺをふくらまして、ヨウちゃんの横にしゃがみこんだら、虹色の枝の先から、ふわっと煙があがってきた。

 虹色の細い煙。つんと、鼻につく枝の焼けるにおい。

 煙の先は、砲弾倉庫の入り口から、ヒースの茂みへ流れていく。




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