ナイショの妖精さん

くまの広珠

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 有香ちゃんはやわらかい。


 体育の準備運動で、ふたり一組になって、屈伸運動をしているとき。

 有香ちゃんはあたしの補助がなくても、前屈でぺたんて、地面に体がぜんぶつくっついちゃう。


 有香ちゃんは面倒見がいい。


 休み時間に校庭で遊んでいたら、一年生の女子が転んで、ひざをすりむいて泣いていた。

 有香ちゃんは風のように近寄って行って、「だいじょうぶ? ひとりで歩ける?」って。けっきょく、おんぶして、その子を保健室までつれて行ってあげた。


 有香ちゃんは頭がいい。


 国語の時間、しゃんと背筋をのばして、教科書を読む声。すらすら心地よく教室にひびく。

 細い手足に高い身長。立ち姿も、座り姿も、歩き姿もぜんぶキレイなのは、バレエをやっているからだよね。

 知的な黒縁メガネ。中の目は、長いまつ毛にかこまれていて、切れ長。


 う~ん。大和なでしこ~。


 教科書から目をはなして、ぽーっと有香ちゃんの横顔をながめてたら、黒板の前から、「和泉っ!」って、野太い声があがった。

見たら、担任の大河原おおがわら先生が、鬼がわらみたいな顔でにらんでる。


「なにをぼ~っとしてるんだ! 永井の次から、教科書読んでみろ!」


「うあっ! は、はいっ!」


 イスをガタガタさせて、立ちあがったけど。


 あれ……今って、何ページ目だったっけ?


「――和泉。先生には、その教科書、国語じゃなくて、算数に見えるんだがな……」


「えっ?」


 あわてて閉じて、表紙を見たら、ばっちり「算数6 下」って書いてある。


「う、うわああっ!! 」


 教科書をほうりだしたあたしに、クラスメイト大爆笑。


「ったく。開始から今の今まで、三十分間! 授業中、いったい、なにしてたっ!? 」


「ほぇっ!?  え、えっと。有香ちゃんがカッコよすぎて、見とれてましたっ!! 」


 あ~あ。また、アホなこと言っちゃった。


「おいおい!『カッコイイ』って、永井は女子だろっ!? 」

「え~? おまえらって、そういう関係っ~!? 」

「すげぇっ! このクラスの人間関係、複雑すぎて、マジウケるっ!! 」


 みんなもう、お腹を抱えて笑いっぱなし。




 お昼休み。

 真央ちゃんてば、まだケラケラ、思い出し笑い。

 いつもどおりに、真央ちゃんの席に、有香ちゃんとあたしと三人であつまって。おしゃべりの最中なんだけど。

 あたし、ゆかの底にうまりたい。


「綾~。四時間目の国語、サイコーだったぞ~。ってか、見とれてたの、中条にじゃなくて、有香にかよ~っ!? 」


 う……。


 あたしの好きな人がだれかって、真央ちゃんと、有香ちゃんには、バレてるんだよね。


「あのときの中条の顔、なかなかの見モノだったぞ。真っ青になって、手からシャープペン、ポロリだもんっ!! 」


 真央ちゃん的には、それがさらに、ツボだったみたいなんだけど。


「……サイアク。やっぱり、ドン引きされてたんだ……」


 あのとき、ふり向かないでよかった……。


「そんなに落ち込まないで、綾ちゃん。わたしは単純に、うれしかったよ。綾ちゃんがわたしに見とれてくれてたなんて」


「有香ちゃん~。なんでそんなにやさしいの~?」


 有香ちゃんの手を、両手でぎゅっとにぎりしめたら、通りすがりの男子が「よっ! 相思相愛っ!」って、茶々いれ。


「う、うるさい……」


「綾ちゃん、気にしない、気にしない! 人のうわさも七十五日。それより、わたしね、見てほしいものがあるんだ」


 有香ちゃんが、自由帳をさしだしてきた。

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