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5 決戦は卒業キャンプで
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しおりを挟む「……よかった。治って……」
銀色の光の中を飛びかうのは、背中にトンボの羽をはやした、手のひらサイズの小さな子たち。
「……ああ」
ほおに銀色の光を反射させて、ヨウちゃんも部屋の中をあおいでる。
あれ? こんなにいっぱい妖精がいるのに、ヨウちゃん、妖精のこと怖くない?
あたしのあげた、サシェのせい?
それとも、自力で克服したのかな?
「ねぇ、ヨウちゃん……。妖精にとってヨウちゃんのお父さんって、どんな人だったんだろう?」
最後の羽を治して、はばたいた子を目で追いながら、あたし、つぶやいた。
「あたしね。はじめ、ヨウちゃんのお父さんは、妖精の面倒をみてくれるやさしい人だと思ってた。でも、それだけじゃなかった。
たとえ悪気はなかったとしても、お父さんはヒメのタマゴをうばっちゃったんだ。だから、ヒメは怒って、その感情でタマゴは黒いタマゴにかわっちゃった。あたしにくれた白いタマゴだってさ。妖精から、うばったものかもしれないんだよね」
ヒメが、ヨウちゃんの鼻の先を飛んでいく。
さっき、ヨウちゃんがヒメの針を抜いて、羽に葉をあてて治すのを、ヒメはずっと見つめていた。
「人間ってのは、いいこともするけど、まちがいもするからな」
片ひざ立てて、ゆかに座って、ヨウちゃんてばエラそう。
「とうさんは、妖精の傷を治したけど、タマゴを勝手に日本に持ち込んだ。それだって、いいことだったのか、悪いことだったのか……」
「あ、あたしもね。自分がまさか、あんな針をこの子たちに投げるなんて思わなかった」
「綾。それは、気にすんな。ゴースの針をわたしたのは、オレだから」
「ううん。投げたのは、あたしだよ。あたしがあんなことしなければ、この子たちは痛い思いをしないで、すんだのに……」
今、チチとヒメはどんな気持ちで、宙を舞っているんだろう。
「ヨウちゃんのお父さんだけじゃない。あたしだって、すぐに大きなまちがいをする。なんかさ、自分で自分が怖くなる」
「……けど、今、治したじゃねぇか」
顔を向けたら、となりで、ヨウちゃんは眉をひそめて、笑ってた。
「いや……オレだって。今回のことで、さすがに悔いあらためたんだ。自分が……こんなにひどい人間だとは思わなかった……。綾を傷つけて。傷つけたのは自分のくせに、アホみたいに自分も傷ついて……。ごめん……。けど、それでも、ひとつ、知ったことがある……」
「……知ったこと?」
ヨウちゃんは、ジーンズの後ろポケットからなにかをとりだした。
あ……へんなぞうきんみたいな四角い物体。
ネトルとヤロウのサシェ。
ヨウちゃんはそのへんな物体を、両手にきゅっと包み込んだ。
「まちがったって気づいたら、やり直したらいいんだ。『ヤバイ、失敗した』ってときは、あわてて立ちもどって、失敗したほころびを直すんだ。とにかく、早く。まだやり直せる余裕があるうちに」
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