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2 妖精のお医者さん
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しおりを挟む青空で、トンビがピーヒョロロロって飛んでいる。
ほっぺたをくすぐるのは、風にそよぐ黄緑色の芝生。
あたしはひとり、浅山のてっぺんに寝ころがってる。
あたしのまわりに円状に巻いた粉は、手作りしたラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダー。
ここは、校外学習でお弁当を食べた、あの原っぱ。
「フェアリー・ドクターの洗礼は、自然にかこまれた静かな場所で行うこと」って、ノートに書いてあるのを読んだとき、あたしは真っ先に、浅山が思い浮かんだ。
あたしにとって、身近な自然は浅山。で、寝ころがれる場所って言ったら、この芝生広場。
日曜のお昼下がり。
山の下じゃ、みんながご飯を食べたり、ドライブしたり、それぞれの休日を楽しんでるはずだけど。
今、地球上には、あたししかいないみたい。
「自分のまわりに、ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダーを撒きます。そして、大地にあおむけに寝ましょう。自分の中の自然を意識します」
う~ん。意識、意識……。
ムムム……眉をひそめて、地面に意識を落としてく。
あ……おでこを照らす太陽、あったかい。
なんか、ぼ~っとしてきちゃう。
「……おい。なに、ひとりで野っ原に大の字になって寝てんだよ」
顔の上から低い声がして、あたし、「むにゃ?」って目を開けた。
「う~、眠いな……。起こさないでよ……」
「おまえ、そんなんで、本気でフェアリー・ドクターになれると思ってんのか? かあさんの翻訳ノートがもったいない」
冷めた琥珀色の目が、あたしを見おろしてる。
「……え? 中条が、なんでここに?」
「おまえの単細胞の頭なら、ここに来るだろうとは思ってたけど、バッチリ当たったな。学校が休みの日。昼間。晴れた日。ぜんぶ予想通りだ」
だから、なんでそんなに、エラそうなのよ?
「フェアリー・ドクター」のことを教えてもらった日から、きょうまで数日。中条は、あいかわらず学校で、「なんにも知らない」って顔して、女子たちにかこまれてたくせに。
むうって、にらんでるあたしを無視して、中条はジーンズのポケットから、小ビンを取り出した。
コルクのキャップを開けて、ビンの中身を芝生の上に、サラサラと円状に撒いていく。
すごい! 虹色の粉。
日差しを受けて、チカチカとかがやいている。
「……なにそれ?」
「ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダー」
「ええ~っ !? あたしがつくったのと、ぜんぜんちがうっ!」
「はぁ? つくった?」
「つくったもん。百均でビャクダンとラベンダーのお香を買って。けずってちゃんと粉にした」
「……あのな。洗礼のために必要なのは、フェアリー・ドクターの魔力とかいうのが宿った、あやしい粉だ。ふつうの小学生が、市販の香をけずってつくれるようなもんじゃない。つかうのはこれ。何年物かナゾだけど、とうさんのたなの奥から発掘した」
中条がビンをあたしの目の前にさしだす。ラベルには、スラスラと英語で、読めない字が書かれている。
「え~っ !! ズルイっ! そんなのあたしが手に入れられるわけないじゃん!」
「だから、おまえに持ってってやれって、かあさんにたのまれたんだよ。――で、ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダーは、今、撒いた。たしかこれが、洗礼のための結界になるんだったよな」
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