ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 妖精のお医者さん

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 あたしは、本だなの前の、重たい木のつくえで目をとめた。

 ドラマに出てくる社長のディスクみたいに大きいんだけど、その上に、金縁の写真立てが置かれている。

 写真のおじさんの顔、知ってる!

 琥珀色の目。茶色い背広、茶色い中折れ帽子。えりもとにはループタイ。

 おじさんは、四歳くらいの男の子の肩を抱いている。サラッサラの琥珀色の髪。琥珀色のくりっとあどけない目。ピンクのふわふわほっぺた。

 て……天使……?

「それ、昔のオレととうさん」

 うげげ。

「ここは、とうさんが生前つかってた書斎。かあさんからきいた話だと、とうさんはイギリス人で、もともと向こうで、文化人類学の研究をする学者だったらしい」

 中条は本だなから、一冊の本を引き抜いた。図鑑並みの大判。中条はランダムにページを開いて、手をとめる。

「――で。専門がコレ」

 つくえの上にドンとのせられた本のページを見て、あたしは息を飲んだ。

 お花の服を着て、背中にトンボの羽をはやした妖精の画集だった。



「つまり、中条のお父さんはじっさいに妖精を見ていた、妖精学者だったってこと?」

「まぁ、おまえが妖精といるとうさんを見てんなら、そうだったんだろな」

 中条は冷めた顔のままで、本だなから、新しく本を引き抜いてきて、パラパラとめくってる。

 あたしの心臓はドクドク、ドクドク。

「スゴイ! ねぇ、中条! それって、ものスゴイじゃんっ!!  だってさっ! ここにある本を読めば、あの病気の妖精も助けてあげられるってことでしょっ!
も~っ !! こんなにステキな隠し部屋があるんだったら、もったいつけてないで、さっさと教えてくれればよかったのに~っ!! 」

「読めるのか、これ……?」

 ポスっと、つくえの上に、ハードカバーの本が置かれた。赤紫色の布が貼ってあって、金の刺繍でふちどりがされている。

 魔法の本って感じ。

 ドキドキしながら開いてみたら、中は印刷されてなくて、ページごとに、手書きで日にちが書かれてた。

 あ、日記だ……。

 青いつけペンで、スラスラと書かれているのは、英語。

 く……おじさんはイギリス人……。

「おじさんのバカ……日本語しゃべれるんだから、日本語で日記つけてくれれば、よかったのに……」

「おまえの都合なんか、とうさんは知らねぇって。日本語の本もあればいいんだけど……。ねぇな。やっぱりムダだったな」

 ポケットに両手をつっこんで、書斎を一周して、中条がもどってくる。

「――まぁ、そんなわけだよ。たしかにとうさんは妖精の研究をしていたし、じっさいにあのバケモノたちと関わっていたのかもしれない。けど、死んだ今となっては、本人からその話はきけっこない。
もちろん、オレは、なんも知らねぇし、ここに入ったのだって、小三のころ、一度かあさんの目をぬすんで、忍び込んで以来だ。
つまり、ここの本も読めないオレたちには、妖精のことなんか、お手あげってこと。
わかったら、帰れ。帰って、きのう見たことは、ぜんぶわすれろ」

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