ナイショの妖精さん

くまの広珠

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7 あたしたちのファンタジー

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 ★ ★ ★





「綾、まだ~? 葉児君が迎えに来てるわよ~」


 階段の下でママがさけんだ。


「は~い! 今行く~っ!! 」


 二階の自分の部屋を開けて、白いコートをはおる。


 きょうは、祝日。久しぶりにヨウちゃんとデートの日っ!


 階段の上からのぞきこんだら、うちの玄関で、ママとヨウちゃんが向かい合ってた。


 うわ……コワ……。


 だってママ、またヨウちゃんに、いろいろ言い出しそうなんだもん。

 ヨウちゃんも、カチコチになって、気をつけしてる。中学の制服に見慣れてたから、一年ぶりのモッズコートがなんだか新鮮。フードのふわふわのファーのふちどりが、カワイイ感じ。

 くつだなの上にひじをかけて、ママがくすりと笑った。


「葉児君、バスケ部、がんばってるんですって? 大会の選手に選ばれたそうじゃない。綾ね、応援に行くの楽しみにしてるわよ」


「あ、はい。それは……どうも……」


 ヨウちゃん、へこへこ。


「まぁ……それはいいとしてね」


 ぎゃっ!!  ママの声色がかわったっ!


「うちにいろいろ苦情が来てるんだけど。あのね、あなた。外で手をつなぐぶんには、まぁね、もう中学生だし、わたしもしょうがないと思ってるのよ。でもなぁに? あなたたち、公衆の面前で、抱きあったり、キスしたりしてるんですって?」


 うああああああっ!!


 思わず、階段からとびだしたら、足を踏みはずした。

 お尻をごつごつ打ちながら、三段落ちちゃう。


「い、イタぁ~……」


「あ、綾っ!? へいきかっ!? 」


 玄関から身をのりだしてきたヨウちゃん、顔真っ青。

 でも、ママは、白い目であたしをギロリ。


「あら? 綾も、きいてたの? まったくね。あんたたち、いつまでラブラブ期なんだか。綾も頑固だけど、葉児君もそうとうよね」


「す……すみません……。こ、今後、人目はひかえます……」


「ママ。ご、ごめんなさい~……」


 お尻をさすりながら、ひょこひょこ階段からおりたら、ヨウちゃんが、手をさしだしてきた。


「綾、ケガしてないか? 今、どこ打った?」


「へいき。打ったの、お尻だけ……」


 ヨウちゃんの手をとって、あたしは自分のブーツに足をつっ込む。

 まるで、王子様に手をさしだされて、ガラスのくつをはくシンデレラ。


「……ホントに、長いラブラブ期ね……」


 ふと、ママのほおがほころんだ。


「いいかげんに飽きて、ほかの人にのりかえてもいい時期なんだけど。あんたたち見てると、いつまでたっても、初々しいっていうか。ほほえましいっていうか。見てるこっちが、やんなるわよ」


「……はぁ」


 ほっぺたをピンクに染めるヨウちゃん。

 その手をにぎったまんまで、あたしはママをふり返った。


「ママ。ラブラブ期なんかじゃないよ? あたしとヨウちゃんは、ず~っと、一生、ラブラブなの」


 にっこり笑って。玄関のドアを開けて。


「ひとりの人とつきあってたって、幸せに結婚できるってこと、あたしが自分の人生をつかって、ママに教えてあげるよっ!」






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