ナイショの妖精さん

くまの広珠

文字の大きさ
上 下
622 / 646
7 あたしたちのファンタジー

57

しおりを挟む



「ごめん。いまだに目に見えているものが信じられない……」


 浅山の砲弾倉庫跡で、真央ちゃんが目をこすってる。

 古代ヨーロッパの遺跡みたいな赤レンガ造りの部屋の中で、有香ちゃんもさっきからずっと、まばたきをくり返してる。

 その部屋の真ん中にクローバーの葉をあつめてつくったベッドがあって、中でヒメが横向きに丸まって眠っていた。

 腰まで流れる金髪。白いロングドレス。人間の手のひらサイズしかないヒメの背には、銀色にかがやくトンボの羽がはえている。

 あたしは、有香ちゃんと真央ちゃんといっしょに、ヒメの前にしゃがみ込んでいる。


「……妖精……だよね。本物の……」


「……だな」


 倉庫の壁に背中でよりかかって、ヨウちゃんがしらっとつぶやいた。

 自分だって、はじめて妖精を見たときは、あわてふためいて、ビビりまくっていたくせに。そんな過去は、まったくわすれたふりしてるんだから、いい気なもん。


「つ~か、こいつ、産後なんだから、静かにしとけよ」


 クローバーの中で、ヒメは両手に大きな白い玉を抱いている。まるきりアメ玉サイズ。ヒメの口元はほころんでいて、幸せな夢を見ているみたい。


「えっと……妖精に、タマゴを産ませるには。好きな花に、別の花の花粉を何種類かあわせて受粉させ、受粉させた花を、一週間、妖精に抱いて寝かせる。運がよければ、一週間後の朝、花はタマゴにかわる。成功する確率は、十パーセント」


 誠がふむふむと、ヨウちゃんのノートを読みあげた。


 そうなんだ。

 ハロウィンの日から、ヨウちゃんと話し合って、真央ちゃんと有香ちゃんには本当のことを話すって、決めたんだ。


「相手が信じるかどうかは別として。隠すような悪いこともしてねぇだろ。ふたりは綾の親友なんだし。言いふらしたり、浅山を荒らしたりするようなやつらじゃない」


 ヨウちゃんてば、さらりと言った。なやんだのは、あたしのほう。

 なんかさ。胸の奥にある、むやみやたらと人に見せたらいけない部分を、見せるような気がしてさ。

 それでも、ハロウィンの一件から、どうしても納得できないって、ふたりに言われ続けていて。ともかく、現実を見てもらうことにしたんだ。


「ふ~ん。なるほどね~。妖精って、こうやってタマゴを産むんだ~。なんつ~か、タマゴを産むとこまで、ファンタジーなんだな。オレ、もうちょっと具体的なカンジを想像しちゃったよ~」


 誠が、ぽりぽりとこめかみをかいたら、ヨウちゃんが真っ赤になって、横からノートを奪い取った。


「あたりまえだっ! つか、そ~じゃなかったら、わざわざこっちから、タマゴを産ませたりなんかしねぇよっ!! 」


「……ぐたいてき?」


 あたし、ヒメの前にしゃがみこんだまま、きょとん。


「でもさ~。赤ちゃんって、なんでとつぜん、お母さんのお腹にぽっこり入るのかな~? やっぱり、コウノトリさんが運んでくるのかな~?」


 そしたら、なぜだか、部屋の中が静まり返った。

 アーチ状の入り口から、のどかなお昼の日がさしこんでくる。


「……う~ん」


 って、腕を組んで、眉をひそめたのは真央ちゃん。


「ここは話すべき? ナイショにしとくべき?」


 って、おでこにひとさし指をおいて、考え込んでる有香ちゃん。


「葉児。その、まぁ、ドンマイ!」


 誠がポンッと、ヨウちゃんの肩に手を置いたら、ヨウちゃんはガクンと首をさげた。


「……いや、へ~き。なんとなく、そんな気がしてたから」


「ええ~? なんで~っ!?  みんなして、なにこの空気っ!」



 ヒメにタマゴを産ませようって決めたのは、あたしとヨウちゃん。

 ヨウちゃんのお父さんの心のこりや、ハグができてしまった原因、ヒメの気持ちを考えて、もう一度、ヒメにタマゴを育てさせてあげたいなって、思ったんだ。


「あと、八年か……。その間ずっと、ヒメはここでタマゴを守り続けていくんだね……」



 八年後の、あたしたちは二十一歳。


 みんな、どこでなにをしてるんだろう……?




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

図書室ピエロの噂

猫宮乾
児童書・童話
 図書室にマスク男が出るんだって。教室中がその噂で持ちきりで、〝大人〟な僕は、へきえきしている。だけどじゃんけんで負けたから、噂を確かめに行くことになっちゃった。そうしたら――……そこからぼくは、都市伝説にかかわっていくことになったんだ。※【完結】しました。宜しければご覧下さい!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

時間泥棒【完結】

虹乃ノラン
児童書・童話
平和な僕らの町で、ある日、イエローバスが衝突するという事故が起こった。ライオン公園で撮った覚えのない五人の写真を見つけた千斗たちは、意味ありげに逃げる白猫を追いかけて商店街まで行くと、不思議な空間に迷いこんでしまう。 ■目次 第一章 動かない猫 第二章 ライオン公園のタイムカプセル 第三章 魚海町シーサイド商店街 第四章 黒野時計堂 第五章 短針マシュマロと消えた写真 第六章 スカーフェイスを追って 第七章 天川の行方不明事件 第八章 作戦開始!サイレンを挟み撃て! 第九章 『5…4…3…2…1…‼』 第十章 不法の器の代償 第十一章 ミチルのフラッシュ 第十二章 五人の写真

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

小さなパン屋の恋物語

あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。 毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。 一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。 いつもの日常。 いつものルーチンワーク。 ◆小さなパン屋minamiのオーナー◆ 南部琴葉(ナンブコトハ) 25 早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。 自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。 この先もずっと仕事人間なんだろう。 別にそれで構わない。 そんな風に思っていた。 ◆早瀬設計事務所 副社長◆ 早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27 二人の出会いはたったひとつのパンだった。 ********** 作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...