ナイショの妖精さん

くまの広珠

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6 地下からの招待

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 穴から突き出していた無数の手が半透明にぼやけた。

 細くなった亀裂に飲まれて、手は消える。


 ピシ、ピシ、ピシ、ピシ……。


 亀裂が合わさると、ひび割れたところの地面が、恐竜の背骨のようにもりあがった。


 ズン……。


 地面がしずまる。




「な、な、なんとかなったの……?」


 あたしはへたり込んだまま、肩で息をついた。

 あたりを見まわせば、ひとけのない外人墓地が夕日を受けている。

 さっきできたばかりの水たまりが、大地のあちこちで、太陽を反射して光っている。

 カラスの鳴き声。ほおにそよぐ冷たい風。


「……いや。もどっては来れたけど……けっきょくのところ、穴の閉じ方が中途半端なのはかわってない」


 ヨウちゃんは荒い息をつきながら、地面のぬかるみも気にせずに、へたり込んだ。


「なんで? ヨウちゃん、今ちゃんと、杖をつきさして、穴を閉じてくれたじゃない」


「もともと鍵の開いていたドアを開けて、ティル・ナ・ノーグに行き、帰ってきてドアを閉めた。それだけだ。鍵は開きっぱなしのまんまだよ……」


「そんな……。じゃあ、日が落ちたら……」


「……ああ。また穴が開いて、今度こそ、あのモンスターたちが地上にあふれだす……」


「……そしたら、ハグも……」


「くそっ!」


 ヨウちゃんが、こぶしで地面をたたいた。


「やっぱり、一か八かで、穴が開くのを待ってから、巻きもどしの法の儀式をし直さなきゃならねぇのかっ! そんなんで、間に合うのかよっ!!  あのバケモノたちを、ハグを、オレに抑えきれるのかっ!! 」



「お~いっ!! 」


 バタバタと足音がした。だれかが外人墓地へ登山道をかけてくる。

 とびだした何人もの人影に、あたしは息を飲んだ。


「誠っ! と、真央ちゃんと有香ちゃんっ!」


「おまえら、まだ山にいたのかっ!? 」


 ヨウちゃんが、腕でこめかみの汗をぬぐって立ちあがった。


「子どもたちはみんな、無事に児童館に帰ったよ。杏ちゃんも」


「……杏ちゃんも」


 あたしはほっと、胸をなでおろす。

 誠の後ろで、真央ちゃんが腕を腰に置いた。


「なのにな。綾や中条がなかなか帰ってこないうえに、誠までずっと植物園で、そわそわ中条の電話待ちしてるだろ。だから、うちらも気になって、のこったんだ」


「綾ちゃん、なにがあったのっ!?  ちょっと、そんな地面に座り込んじゃ、ドロドロじゃないっ! ね、わたしがつくった羽は?」


 有香ちゃんがあたしの腕を取って、立ちあがらせてくれる。


「え? ……あれ? ない。ごめん、たぶんティル・ナ・ノーグに置いてきた……」


「てる・な……?」


 コンタクトの目でまばたきする有香ちゃん。


「葉児……和泉を助け出したんだな……」


 誠が目じりをさげた。


「……ああ。――って、今はのんきに、こんな話ししてる場合じゃね~ぞ! おまえら、すぐに下山しろっ!!  日がしずむ前にっ! のこっていいのは、オレと綾だけだっ!! 」


「……え? なんで、葉児と和泉だけ?」


 キョトンとした誠が、次の瞬間、ハッと目を見開いた。

 同時にあたしも思い出してた。

 ティル・ナ・ノーグの穴を閉じる儀式は、浅山全体を祭壇にして、妖精の世界にかえないと行えない。

 つまり、儀式中に、浅山にいていいのは、妖精と関わりのある者だけ。

 フェアリー・ドクターの洗礼を受けているヨウちゃんと、あたしだけ。


「どうしようっ!!  みんな、早く山からおりて~っ!! 」


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