ナイショの妖精さん

くまの広珠

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6 地下からの招待

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――行くな。なにもしない――



 脳みそに直接、老婆の声がひびいた。

 ハグの姿は、木の影にぼやけて消えてしまうほどに、うすい。足元の地面が透けて見える。


 ……幽霊……?


――わたしは、今、この地の底。混沌の闇にいる。だが、今晩、わたしの体は無にかわる――


「……無に?」


――わたしがわたしでなくなる。わたしが消える。怖い……――


 カッと空が光った。

 オークの木の幹が強い光に照らされる。だけど、ハグの姿は光に消えた。

 そこに、存在しないもの――。


――おまえに、ハロウィンの夜に、モンスターがあふれるわけを教えてやろう。

ハロウィンは、穴に落ちた者たちが、この世にあることを許された最期の時間。サウィンがくれば、ティル・ナ・ノーグはふたたび閉ざされ、落ちた者たちは夜明けとともに、無にかわる。

無となった者たちは、大地の底から、やがてまた新しい生命として、この世につくりかえられる。

しかし……怖い。無になるのは怖い。救ってくれと、落ちた者たちは、穴から逃げ出し、混沌の闇に体を溶かされたモンスターの姿となって、町をさまよい歩くのだ――


「そんなこと……あたしにきかせて、どうなるって言うの……?」


 あたしは、杏ちゃんを抱く腕に力を込めた。


「同情なんか、しないからっ!! 」



「おねえちゃん……?」


 杏ちゃんが、目に涙をためてあたしを見あげてくる。

 だって……ハグには、ずっと苦しめられた。

 ヨウちゃんだって、たくさんたくさん傷つけられた。

 鵤さんも誠もヨウちゃんのお母さんもお父さんも、妖精たちまで巻き込まれた。


――今まで、おまえたちにしてきたことはあやまろう――


 老婆の声がすすり泣いた。


――わたしはずっと、自分の体がほしかった。白い妖精として生まれるはずだったわたしは、黒いタマゴにかえられて、さらに孵化する前にタマゴを割られて、実体を失った。そのせいで、わたしはわたしを手に入れることができなかった。

「自分がほしい」「自分がほしい」。わたしは、おまえやあの少年に助けを求めた――


「た、助けを求めたっ!?  さんざん、嫌がらせしたくせにっ!」


――ほかの求め方を知らなかったのだ。老婆の姿をしていようと、わたしはしょせん生まれたての妖精。未熟さゆえ、自分の心の悲鳴を、人にうまく伝えるすべを、知らなかった。許してくれ――


 ……許す……?

 あたしが……ハグを……?



「それで……あたしにどうしろって、言うの……?」


 ゴロロロロと雷鳴がとどろいた。
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