ナイショの妖精さん

くまの広珠

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6 地下からの招待

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 幼稚園児のころ。

 あたしは、浅山で迷子になったことがある。

 ひとりぼっちで、道をあちこちさまよい歩いて。

 だけどやっぱり、ひとりぼっちだったとき。

 みんなから見放されたような気がした。


「あたしは、おねぼうさんだから」「みんなはボタンをとめられるのに、あたしはとめられないから」「おゆうぎが、へたっぴだから」。


 だから、みんな、あたしなんかいらないんだ……。




 木々が切れて、目の前が開けた。

 かまぼこ型やホームベース型をした墓石や十字架が、雨にぬれている。

 外人墓地の真ん中に、オークの巨木が葉をしげらせていた。枝のあちこちにからみつくのは、ヤドリギ。

 カッと、空に稲妻が光った。


「きゃっ!」


 オークの木陰で、小さな女の子が、背中を丸めてちぢこまった。両耳を手でふさいで、目をぎゅっと閉じている。

 猫耳のカチューシャをつけた女の子。


「杏ちゃんっ!」


 頭に雨を受けて、あたしは墓石の間を走った。


「おねえちゃん!」


 杏ちゃんが立ちあがって、あたしに両手をのばしてくる。


「杏ちゃん、だいじょうぶ? どうしたの? 道がわからなくなっちゃったの?」


「ちがうの。おねえちゃん、あのね……杏ちゃん、妖精さんを見たのっ!」


 ドキンと心臓が打ちつけた。


「……え……?」


 杏ちゃんの小さな両腕が、あたしの腰にぎゅっとしがみつく。

 目には涙をうかべて。だけど、キラキラと笑っている。


「ホントだよっ? 本物の妖精さんっ!!  こ~んなに、小さくってね。トンボの羽がついてるの! 葉っぱの下で雨宿りしてるのをね、みんなと歩いてるときに見たの。だけど、妖精さんは、杏ちゃんに見られてるって気づいたとたんに、つ~って飛んで、逃げちゃった。

こっちのほうに飛んでったの。杏ちゃん、今、さがしてるのっ!! 」


 カッとまた、目の前が光った。杏ちゃんの足元で、何かのガラスの表面が、光に反射する。


 ……これ……。


 ガラスの小ビン。コルクのふたをしてあって、中に虹色の液体が四分の一くらいのこってる。

 ラベルには、ちょっと特徴のある手書きの字で「チコリ」。



 ドオオオオンっ!


 地響きがした。

 しゃがんで、ビンを拾いあげながら、あたしはオークの木の下に立つ者を見ていた。



 黒いローブをまとった者。



 ローブは、足がすべて隠れるほどに長い。そで口が広がっていて、指先まですべて隠している。

 深くかぶったフードの下に、顔はなかった。

 目もなく鼻もなく口もない。ただの黒いモヤのあつまり。



「……ハグ……」



 あたしは立ちあがると、杏ちゃんの肩を、自分の両腕に引き寄せた。


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