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4 手から手へ
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しおりを挟む「……あ~もう、うるっせぇな~……」
ヨウちゃんののどから、低いつぶやきがもれた。
「……え?」
卯月先輩の目がしばたく。
「そうなったら、けっきょくのところ、オレがだれを必要としてるかって、ことになるんじゃねぇの?」
ヨウちゃんはあたしを見おろして、首を横にかたむけた。
「……綾」
ヨウちゃんのくちびるが、あたしのくちびるに近づいてくる。
って思ったら、チュ~。
「うわあああああっ!! 」
昇降口がパニックになった。
「見たっ!? 今! そこの一年っ!」
「って、葉児っ!? なにやってんのっ!? 真っ昼間に、公衆の面前でっ!」
「ああああ、綾ちゃ~んっ!! 」
「うちの綾が~っ! 不純交際を~っ!! 」
ざわつく外野と、あわてふためく真央ちゃんや有香ちゃん。誠やクラスメイトたち。
「わかりました? 卯月先輩。こういうことですから。オレたちのことは、ほっといてくださいっ!」
ぽかんと立ちつくしてる先輩の横を、ヨウちゃんはしらっと、すり抜けた。
「綾、逃げるぞっ!」
「う。うん……」
あたしも頭の中、ふわふわ雲の上なんだけど。
ヨウちゃんに手を引っぱられて、校庭へかけだす。
「あ、さっきの一年って、リレーのときのふたりだよなっ!」
「あいつだろ? 女子たちがさわいでるバスケ部の王子とかって!」
「えええ~っ!? ヤダ、中条君って肉食系~っ!? 」
さわがしい先輩たち。
これじゃ、あしたから、校内中のうわさだな……。
「えっと……。その……。なんだ……。……ごめん」
人通りのない住宅街を、首をたらして歩くヨウちゃん。
さっきまでの、強気な態度はどこへやら。ほっぺた真っ赤で、前髪をうつむけてて。顔をあげるのも、はずかしそう。
「……ううん」
「……でも、オレ、うれしかった。綾から卯月先輩に、『ヤダ』って言ってくれたの」
堤防ぞいの道。ヨウちゃんが立ちどまる。
「少しはオレの気持ち、綾に伝わったって、思ってもいいんだよな」
「ヨウちゃんの……気持ち……?」
「だ、だから……前、綾に……お、オレの……その……愛を……ま、まるごと認めさせてやるって……言ったやつ……」
ヨウちゃんの声、小さいうえに、こぶしで口を隠して、もごもご言うから。
左横からきこえてくる波音に消されちゃう。
「……うん。へ~き。もう、伝わった」
ヨウちゃんが手を口からはなして、あたしを見た。
堤防の向こうでは、群青色の海が夕日を受けて、キラキラとかがやいている。
「綾。これ、見たよ」
制服ズボンの後ろポケットをさぐって、ヨウちゃんがスマホを取り出した。
待ち受け画面に、見覚えのあるパッチワークガラが、アップになって映ってる。
「あ……。あたしが文化祭に出したクッション……」
「……スゴイと思った」
ヨウちゃんの口元がふわっとほころんだ。
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