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1 むすびつきのないカップル
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しおりを挟む日曜日の朝。
自宅カフェ「つむじ風」の庭は、たくさんのハーブの花であふれている。
アーチのバラに、セージに、ローズマリーに、ヘアベルに。色とりどりの花びらがまぶしい日差しを受けている。
このお花畑にかこまれた家がヨウちゃんち。
「ヒマなら、うちに遊びに来て」なんて、ヨウちゃんから電話をもらったのは、きのうの晩。
言われなくても、日曜のたびに、あたしはこのおうちにお邪魔してるんだけど。
お花にかこまれた小路を、エントランスに向かって歩く。風見鶏がまわっている、三角屋根は、もう目の前。
とつぜん、玄関の白木のドアが、目の前で開いて、中から細身のジーンズの足がとびだしてきた。
……ほぇ?
ドアを大きく開けて、中の人に呼びかけてる。
「え~っ!? あのね~、わたしはおきゃくさん……」
「知らねぇよ。ほら、出ろってっ!」
ヨウちゃんは中の人の腕を、ぐいっとつかんだ。
引っぱられて、髪の長い女子が出てくる。
卯月先輩っ!!
青いロングのフレアスカートがひらひらしてる。長袖シャツのえりは横に大きく開いていて、肩も鎖骨も見えている。
ふっと、バニラ系の香水の香りがした。
つけまつ毛をした目で、卯月先輩はあたしを見おろして、まばたきした。
「あ、こんにちは。なるほど、なるほど。そういうことか。だから、葉児君、あせってわたしを追い出しにかかったってわけね。じゃあ、しょ~がない、きょうは帰るか~」
口にふくみ笑いをつくって、卯月先輩はヨウちゃんにひらひら手をふった。
「また、学校でね~」
……な、なんなの……?
エントランスにぽつんと立って。バラの葉のアーチをくぐる長い髪を見送って。
あたしは、玄関先で、ドアノブをつかんでいるヨウちゃんをふり返った。
ヨウちゃんの目が、すっと横にそれる。
……え?
「かあさん、綾が来たから。二階行く」
ヨウちゃんはもう玄関をあがって、一階のカフェをのぞきこんでる。
一階は、ヨウちゃんのお母さんが経営している、自宅カフェ。
店内の壁のいたるところに、ハーブのドライフラワーがさがっている。ウッド調のテーブルで、ハーブティーを飲むお客さんたちは、ケルトミュージックのやわらかな音色に耳をかたむけている。
「は~い。綾ちゃん、ごゆっくり~」
中のカウンターでヨウちゃんのお母さんがほほえんだ。
お母さんは、あたしと歳が十もかわらないんじゃないかと思うくらい、童顔。ほっぺたにできるぽっくりエクボがかわいらしい。白いひらひらレースのエプロンがよく似合ってる。
ヨウちゃんは、両手をジーンズの後ろポケットにつっ込んで、とんとん階段をのぼっていく。
二階にふたつならぶ部屋の手前の部屋が、ヨウちゃんの部屋。
中はまぁ、「男子の部屋」って感じ。
たなはメッキのラックで、青とか黒とか冷めた色ばっかりだし。テレビラックの下は、雑誌とかDVDとかがつみ重なってる。
窓際に横づけされたベッド。窓から、青い海が見わたせる。
ふと、香水のにおいがした。
え……?
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