ナイショの妖精さん

くまの広珠

文字の大きさ
上 下
561 / 646
1 むすびつきのないカップル

2

しおりを挟む

「そうそう。ただ今、葉児のファンで、体育館が鈴なり状態」


 誠が、手芸部の部室の窓に外側から寄りかかって、ぺらぺら話してる。

 うちの花田中学校の手芸部は、校舎の一階にある。そんなわけで、校庭で活動していた誠たち一年のサッカー部員は、休憩時間になると、手芸部の部室の前にあつまってくる。


「さっき、基礎連でマラソンしてたときだろ? 外回りで学校の外周走ると、体育館の入り口が見えるからな。しっかし、あいつ、部活はじめても、チョーうぜーよな。少し顔がいいからって、ちょっとバスケしただけで、女子の注目あつめやがって」


 いかつい腰に手を置いて。細い目をムスッととがらせているのは、大岩。誠と同じ、サッカー部員で、あたしたちはクラスメイト。

 って言っても、花田中学は海と山にはさまれた田舎町にあって、一学年一クラスしかない。だから、同じ一年なら、みんなクラスメイトなんだけど。

 こんな状態は小学校から。つまり、クラスメイトは全員、おさななじみみたいなもん。


「まぁね~。中条は英国に亡きお父様を持つ、ハーフだからね。で、スポーツもできるときたら、そりゃ、先輩たちだって食いつくでしょう」


 あたしの横でほおづえをついたのは、有香ちゃん。さっきまで有香ちゃんは、ミシンの前で、文化祭で配るコースターを製作してた。でも、誠たちが来たから、休憩するみたい。


「和泉ぃ、負けないでよ?」


 顔をあげると、誠のくりくりの二重が、窓越しにあたしの顔をのぞきこんでいた。


 横に広がった丸い耳と、大きめの口。小学校のころは、「おさるさんみたい」で通っていた誠なんだけど、中学に入ったら、ぐんと背がのびた。

 今は、声がわりもすんで、声低い。それに、ワックスをつかって、髪の毛をつんつんとセットしている。サッカーコートで走りまわる姿は、「カッコイイ」って、ひそかに女子たちの間でうわさになってる。


「負けないって、なにが~?」


 へらへら笑ったら、有香ちゃんに「綾ちゃん」ってにらまれた。


「気を抜いたら、ファンたちに中条を取られるよってことっ!」


 黒縁メガネに、ふたつにむすんで胸元にたらした長い髪。有香ちゃんは、すらっと細い腰に手を置いて、知的なオネエサマみたい。


「……うん」


 ホントはわかってたんだけどね。誠が言いたかったこと。


 でもさ……。気を抜くも抜かないも……あたしみたいなのに、勝ち目があるのかな……?


 あたしはいちおう、ヨウちゃんのカノジョ。

 だけど、あたしは、チビ。もやしみたいにひょろひょろ。胸もぺったんこ。

 頭のてっぺんには、アホっ子丸出しの、アホ毛がくるんとそり返っていて。

 そのうえ、ドジで、運動オンチ。料理も絵も音楽も苦手。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

たぬき

くまの広珠
児童書・童話
あの日、空は青くて、石段はどこまでも続いている気がした―― 漁村に移住してきたぼくは、となりのおばあさんから「たぬきの子が出る」という話をきかされる。 小学生が読める、ほんのりと怖いお話です。 エブリスタにも投稿しました。 *この物語はフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。

がきあみ ―閻魔大王がわたしたちに運命のいたずらをした―

くまの広珠
児童書・童話
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」 クラスメイトの宝君は、告白してくれた直後に、わたしの前から姿を消した。 「有若宝なんてヤツ、知らねぇし」 誰も宝君を、覚えていない。 そして、土車に乗ったミイラがあらわれた……。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 『小栗判官』をご存知ですか? 説経節としても有名な、紀州、熊野古道にまつわる伝説です。 『小栗判官』には色々な筋の話が伝わっていますが、そのひとつをオマージュしてファンタジーをつくりました。 主人公は小学六年生――。 *エブリスタにも投稿しています。 *小学生にも理解できる表現を目指しています。 *話の性質上、実在する地名や史跡が出てきますが、すべてフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

桜ヶ丘中学校恋愛研究部

夏目知佳
児童書・童話
御手洗夏帆、14才。 桜ヶ丘中学校に転入ほやほや5日目。 早く友達を作ろうと意気込む私の前に、その先輩達は現れたー……。 ★ 恋に悩める子羊たちを救う部活って何? しかも私が3人目の部員!? 私の中学生活、どうなっちゃうの……。 新しい青春群像劇、ここに開幕!!

箱庭の少女と永遠の夜

藍沢紗夜
児童書・童話
 夜だけが、その少女の世界の全てだった。  その少女は、日が沈み空が紺碧に染まっていく頃に目を覚ます。孤独な少女はその箱庭で、草花や星月を愛で暮らしていた。歌い、祈りを捧げながら。しかし夜を愛した少女は、夜には愛されていなかった……。  すべての孤独な夜に贈る、一人の少女と夜のおはなし。  ノベルアップ+、カクヨムでも公開しています。

処理中です...