ナイショの妖精さん

くまの広珠

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「は? ちがうぞ。あれは勝手に先輩が話しかけてきて、はなれなかったんだって」


「『はなれなかった』じゃね~の、『はなす』んだよ! ベタベタくっつけとく、おまえが悪いっ!」


 真央ちゃん、ぴしゃり。


「……しょうがないよ」


 両手でほおづえをついて。つくえの上を見つめて。あたし、ほほえんだ。


「ヨウちゃんの気持ち、わかるよ。あたしみたいなアホっ子のガキより、卯月先輩みたいにキレイで、頭のいい女の人のほうが、そりゃいいよね……」


 ヨウちゃんの目が、一瞬、見開かれる。なにかを言いかけて、だけど口を閉じた。

 ヨウちゃんは視線を横にそらして、顔をうつむける。



「あれぇ? どうしたの? 倦怠期ぃ?」


 とつぜんの能天気な声。

 見たら、誠がヨウちゃんの肩越しに、あたしたちをのぞきこんでた。


「なになに、葉児? なんかあったわけ~?」


「……なんもねぇよ」


 背中を向けて、ヨウちゃん、行っちゃう。


「葉児。そこで引きさがんなよ。みぞが深まるだけだぞ?」


 誠がぐいっと、ヨウちゃんの肩を引きもどした。


「ねね、こういうときは、パーッとふたりで遊びに行ってくればいいじゃんっ!」


 窓からの、明るい日差しを背負って、誠のくりくり二重が笑っている。

 なんだか、胸が軽くなった。誠ってスゴイ。いつも、あたしに元気をくれる。


「デートってこと? いいね~、リア充は」


 真央ちゃんたら、遠い目。


「……でも、デートなんて……急に言われても……。どこに行けばいいの……?」


 チラッと、横目でヨウちゃんを見たけど、半分背を向けたまま、無反応だし。


「行きたいとこに行けばいいじゃん! てか、和泉たちは、いつもどこ行ってんのっ!? 」


「え? あ、浅山……とか。ヨウちゃんち……とか」


「それって、デートじゃなくない?」


 誠がじろっと、ヨウちゃんをにらんだ。


「浅山ってとこが、ナゾだよね。綾ちゃんたち、よく行くみたいだけど、ハイキングじゃなくて?」


「ちがうちがう。そこは、ノーカウントでお願いします」


 誠、うちわみたいに、手を横にぶんぶん。


「なにそれ。つまり、綾たちは、デートしたことがないってこと?」


「そ、そんなわけないじゃん。ほら、夏休みに真央ちゃんのお茶会に行ったでしょ? あ、あとは……えっと……去年のクリスマスだって……ベイランドで……」


「あれを数に入れちゃうとか、ナシでしょ。オレなんて、和泉と、ひいふうみいや……もう何回もデートしてんのに」


 みんなの目はじろ~って、ヨウちゃんの背中にくぎづけ。


「なにしてんだよ! 誘えよ、葉児!」

「これは、綾ちゃんに避けられても、文句言えないね」

「中条って、あれか? 釣った魚にエサやんないって、やつか?」


「……ほっとけよ」


 つぶやいたヨウちゃんの声は、ザラザラしてて、すごく低かった。




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