ナイショの妖精さん

くまの広珠

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4 なくしたもの

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「……幸せな結婚……なんて、あたし、ヨウちゃんとするもん」


 口をとがらせたら、ママは、「はぁ~」と頭を抱えた。


「あんたが結婚適齢期になるまで、あと何年かかると思ってんのっ!?  まさか、それまでずっと、葉児君といっしょにいられるとでも思ってる? 

人は心がわりをするものなのよ。たとえ、あなたがしつこく想いつづけてたって、葉児君のほうが、あんたに冷めて、あんたよりいい人を見つけるわよっ!」


 言葉がグサグサと胸に突き刺さってくる。


「そんなことないもん! ママのバカぁっ!! 」


 ガバッと立ちあがって、あたしはリビングのママの前から逃げ出した。

 階段をかけのぼって、二階の自分の部屋にとびこむ。


「ずっといっしょにいられるもん~。あたし、ヨウちゃんちのカフェで、ヨウちゃんのお母さんを手伝うんだもん~。ヨウちゃんは体育教師になって。楽しく幸せに暮らすんだからぁ~……」


 かけぶとんの上から、ベッドにうつぶせになって、ふとんに顔をうずめて。

 それなのに、卯月先輩の後ろ姿が、頭からはなれない。


 お似合いだった。卯月先輩とヨウちゃん。


 ヨウちゃん……卯月先輩とつきあってたんだ……。


 腕を組んで歩いてたし、いつもいっしょに帰ってた。

 ふたりで仲良く、校門から出て。それからヨウちゃん、毎日、卯月先輩と、どこでなにをしてたの……?


 さらっと風がほおをなでた。

 ぼんやりと首を横に動かすと、開けっぱなしの窓から、夜空が見えた。

 チカチカ瞬く星は、まるで、妖精のりんぷん。

 今ごろ、浅山で、妖精たちはダンスを踊っているのかもしれない。


「あたしには……もう、羽がないんだ……。いざというときにも、ヨウちゃんを助けてあげられないんだ……」


 あたしは、チビで、胸もぺったんこ。体は、ひょろっひょろのもやしみたい。アホっ子で、運動オンチで、料理も絵も音楽も苦手。


 こんなあたしに、なんの価値があるの……?






「――綾、もしかしてきのうのこと、怒ってる?」


 クラスメイトたちでざわつく休み時間。

 顔をあげると、教室のあたしのつくえの横に、ヨウちゃんが立っていた。


「……え?」


 あたしの前の席には、真央ちゃん。その横には有香ちゃん。女子三人でいつものように、まったりおしゃべりしてたんだけど。


「朝から、目も合わせないし。オレの席の横、素通りするし。なんなんだよ……」


 制服のポケットに手をつっ込んで。ヨウちゃんは、口をへの字に曲げている。


 びっくりした……。


 ヨウちゃんが、みんなの前で感情をさらけ出してくるなんて。


「綾、中条のこと、避けてたわけ?」


 真央ちゃんが、あたしの顔をのぞきこんだ。


「う……ううん」


「だってさ。中条の考えすぎじゃない? うちら楽しくおしゃべり中なんだから、男子は行った、行ったっ!」


 真央ちゃん、しっしとヨウちゃんを追いはらう。

 だけど、横で有香ちゃんが「あ、もしかして」と口をはさんだ。


「きのうの部活帰りのこと? 中条、綾ちゃんのこと待ってたんでしょ? なのに、なぜか卯月先輩と話しながら帰ってたじゃない。綾ちゃん、会話に入れないで、さびしそうに後ろを歩いてた」

「えっ!?  有香ちゃん、見てたのっ!? 」

「部活の鍵を職員室に返しに行ってね。その帰りに」

「ふ~ん。なるほど、それはヒドイな。中条、浮気か?」


 真央ちゃんが、横目でじろりとヨウちゃんをにらんだ。


「しかも、カノジョの目の前で。元カノと。最低だな」

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