536 / 646
3 夢のあと
27
しおりを挟む★
あたたかい……。
胸に腹に、銀色の粉がふりそそいでいく。
粉は、太い痛みの穴にふりつもり、やわらかく痛みを消していく。
「……う……」
オレはうめいた。
遠のいた意識が、引きもどされていく。
暑い夏の太陽の下へ。
アブラゼミの声が耳をついた。
まぶたを持ちあげると、あまりのまぶしさに目を開けていられなくて、また目を閉じてしまう。
なぜだか、胸がざわついた。
目を開けるのが怖い。現実を見たくない。
「葉児っ!」
まぶたの外側から、誠の声がした。
「葉児、気づいたのかっ!? 」
「……誠……?」
しかたなく、まぶたを持ちあげる。
体を起こそうとして、腹に重みを感じた。
鉛みたいだ。自分の体なのに。
「葉児……」
誠の声が震えている。
なのに、その声の主の姿が、オレには見えない。
目の前にはオークの巨木がそびえていて、太陽の日差しを一身に受けている。その下には広い木陰ができている。
オレのまわりには墓石がかまぼこ状をして、あちこちにつっ立っている。
浅山の外人墓地。
「葉児君、体は?」
鵤さんの声がした。やっぱり声だけだ。
鵤さんも今は、誠と同じ鏡の世界にいるのだろう。
「重いです……すごく……。でも、なんで……?」
自分の腹を見おろして、息を飲んだ。
腹の上に頭が置かれている。白いノースリーブのワンピースから、細い腕が力の抜けた二本の棒みたいにたれている。
「……綾っ!? 」
綾は顔をあげなかった。
背中には、アゲハチョウの羽がある。
あるけれど、先が折れた帆のように、へたっている。
色もなく、透明で、まるで脱皮した後の抜けがらだ。
……抜けがら?
背すじが寒くなった。
「綾っ!? 」
ぐっと、上半身を起こして、綾のほおに手をやる。
冷たい。
カールした長いまつ毛。まぶたは閉じられている。ふっくらと小さなくちびるに指先をあてる。息があたらない。くちびるから息が出てこない。
「な……なんで……?」
サンダルをはいた足を見おろした瞬間、時が止まった。
透けてる。
細い足首が、地面の土の色に溶け込んでいる。
「う、うわあああっ!! 」
思わずのけぞって、背中を後ろの墓石に打ちつける。
「っつ~」
まるでオレの猿芝居だ。
昼下がりの外人墓地はただセミの声がしていて、オレとオレの腹で寝ている綾以外には、だれもいない。
だけど、オレはさけんだ。
「誠っ! これ、どうなってんだっ!? い、鵤さんもっ! 説明してくれっ!! 」
「……葉児君。かなしいけど、きみが今、想像した通りだよ……」
目の前から、鵤さんの重たい声がした。
誠の声がそれにつづく。
「和泉は……葉児の傷を治すのに……りんぷんをつかいきったんだよ……」
心臓に血のような痛みが広がった。
……イヤだ。
イヤだっ そんなの、信じてたまるかっ!
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
たぬき
くまの広珠
児童書・童話
あの日、空は青くて、石段はどこまでも続いている気がした――
漁村に移住してきたぼくは、となりのおばあさんから「たぬきの子が出る」という話をきかされる。
小学生が読める、ほんのりと怖いお話です。
エブリスタにも投稿しました。
*この物語はフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。
悪女の死んだ国
神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。
悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか.........
2話完結 1/14に2話の内容を増やしました
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる