ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 それぞれの誓い

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 水たまりにうつる誠の目が、ハッとゆがむ。


「きさま……ほかにもなにか、たくらんでいるな……?」


 あたしの中のハグが、ヨウちゃんをふり返る。一歩、二歩、ヨウちゃんに向かって歩き出す。


 パシャっ!


 あたしのサンダルが水たまりを踏みしめた。

 ヨウちゃんは奥歯をかみしめる。


「言え……。言うんだ……」


 あたしの指が、勝手に五本開かれる。指の先から、ぶわっと蛇がとびだした。

 蛇は、ヨウちゃんめがけてうねっていく。


「アグリモニー! 呪いから葉児を守れぇっ!! 」


 誠の声。

 ヨウちゃんめがけた蛇たちが、虹色の強い光に目をくらませ、次々にあたしのほうへもどってくる。


「きゃっ!! 」


 あたしの胸へ、ひざへ、顔へ、次々にぶつかってくる。

 たたらを踏んで、あたしは地面に尻もちをついた。

 とたん、あたしの体の上に、大きな体が馬乗りになった。


 ……え?


 ハグにのっとられたあたしの目に、人の顔がアップで映る。

 琥珀色の髪。後ろに真夏の太陽を背負って。琥珀色の瞳がするどく光る。


 ……ヨウちゃん。


「ハグ! 覚悟しろっ!! 」


 ふっとくちびるに、冷たいくちびるの感触がした。


 ええええええっ!?


 とたん、口の中の空気を吸い込まれた。あたしの体の中のものがヨウちゃんの吸引力で、引っ張られていく。

 お腹にとぐろしていた黒いモヤが、ぞぞぞと動いた。

 ドロドロとしたモヤが、あたしのくちびるから、ヨウちゃんのくちびるにうつっていく。

 ヨウちゃんが、あたしからくちびるをはなした。ブハッと息を吐きだして、黒いモヤを地面にはき捨てる。


「よ……葉児……な、なにして……?」


 誠の声、震えてる。


「蜂にさされたときに、毒を吸引して、体内から出すだろっ!?  その要領で、ハグを綾の体から引きずり出してやるっ!! 」


 口元のモヤをぬぐって、ヨウちゃんはまた、あたしのくちびるに吸いついた。

 ズルズルと体の中でモヤが動いていく。ヨウちゃんの方へ引っぱり出される。


「……ヨウちゃん……やめて……。誠、助けて……」


 あたしの声で、ハグがうめいた。

 あたしの右手が勝手に動いて、水たまりに映る誠に、ふらふらとさしだされる。

 誠に命乞いしてるみたいに。

 誠はぎゅっとくちびるをかみしめた。首を横にふって、後ずさった。


「……オレは……ウソっこの和泉なんか、いらないっ!」


「なんで……? だけど誠は、このあたしのほうがいいでしょ? 本当のことより、ウソっこのほうが自分にとって都合がいいなら、いっそ、本当のことなんかねじまげて、ウソっこにかえちゃえばいいじゃない」


「……本当のことをねじまげる……?」


「そうだよ! 自分が強く思い込めば、真実だってウソに、ウソだって真実にかわるんだよ!」


「だけど、オレにはプライドがあるっ!」


 目に涙をためて、誠がさけんだ。


「和泉にふられたって、オレはオレだから、自分がはずかしくなるような生き方はしない! つらくても、ちゃんと受け止められるんだっ!! 」
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