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2 それぞれの誓い
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しおりを挟む丸く開いた空洞に、金髪で白いロングドレスをまとった妖精がちぢこまっていた。
「ヒメっ!」
ウエーブした長いきれいな髪は、風にゆさぶられたせいでぼさぼさ。抱えていた頭から手をはなして、青い目があたしにすがりつく。
ヤドリギの内側に、ゴースの針がトゲみたいにつきだしていた。ヒメの銀色の羽にもゴースの針が何本もつきささっている。
「待って。今、治してあげる」
あたしは、手のひらにヒメをのせて、そっとヤドリギから取り出した。
羽にささった針を、指先で一本一本、引き抜いていく。
ぜんぶ抜けたら、ポシェットをさぐって、ビンにつまったハナヤスリの葉を取りだした。
「ハナヤスリさん、ヒメの羽を治して」
葉を、湿布のように、ヒメの羽に押しあてる。
「チンチンチンチン!」
あたしの手のひらで、ヒメがふんわり立ちあがった。
トンボ型の羽を広げたと思うと、宙に浮かんで、くるんと宙返り。
……治った……。
「ね、ヒメ。あたしは、ほかのヤドリギを開けるから。ヒメは、仲間の羽を、このハナヤスリの葉でもどしてあげてほしいの」
葉をさしだすと、ヒメはうなずいた。
「キンキン!」
青い瞳から、明るい光がこぼれてる。
枝にからまるマリモのようなヤドリギ。そばにあるものから順々に、あたしはチコリの薬をかけていく。
次々と、中から出てくる妖精たち。
ヒメは、細い腕で全身の力をつかって、刺さった針を引き抜いている。それから、妖精の体ほどもある大きなハナヤスリの葉を押しあてて、仲間の羽を治してる。
治った妖精たちは、治ってない妖精たちの針を引き抜くのを手伝って。
最後にヒメが、ハナヤスリの葉で羽を治して。
オークの葉のまわりがにぎやかになった。
チンチンチン、キンキンキンと妖精たちの笑い声。
治った妖精たちは手をつなぎ、銀色のりんぷんをキラキラさせながら飛んでいる。
木のてっぺんに、ひときわ巨大なヤドリギを見つけた。しんとしていて、中から音がきこえてこない。
「……鵤さんはこの中に……?」
「綾っ! 避けろっ!! 」
下から、ヨウちゃんの声がした。
とっさに、チョウチョの羽をひるがえす。
人間のときは運動オンチだけど、あたし、妖精になっちゃえば、人間の何十倍も体が軽い。
だけど、0・1秒遅かった。
右手から力が抜けて、チコリのビンが地上に落下した。
……え?
標本みたい。アゲハチョウの形をしたあたしの右羽の真ん中を、杖がつらぬいている。
先には妖精の羽がついた、ハグの杖。
「綾ぁっ!」
ヨウちゃんがさけんだ。
体が落下していく。どんどんスピードを増して、地面が近づいてくる。
ヨウちゃんが見えた。あたしを見あげる琥珀色の瞳。
その足に、蛇の形をしたモヤが何匹も巻きついている。
身をもがき、足にからみつく蛇を蹴飛ばし、ヨウちゃんが両腕をのばす。
「きゃあっ!! 」
目をつぶったけど、痛くなかった。
「だ、だいじょうぶかっ!? 綾っ!」
そろっと目を開けたら、ヨウちゃんのほっぺたがくっつくほどそばにあった。押しつけられたTシャツの胸。ドクドクと速い心臓の音。
あたし、胎児みたいに丸まって、ヨウちゃんの両腕の中にすっぽりおさまってる。
「あ、ありがと、ヨウちゃん。羽はへいき。ハナヤスリの葉が、まだあるもん」
「よ、よくも、綾をっ!」
ヨウちゃんがあたしをおろす。すぐに羽から、ハグの杖を引っこ抜いた。
その杖が、ヨウちゃんの手をすり抜ける。見えない糸で操られているように、ハグの手の中にもどっていく。
あの杖には、主人のもとにもどるゴールデンロッドの小花のパウダーがふりかけられている。
「……おまえたちは、わたしと話し合いで解決する気はなさそうだね。ならば、しかたがない。不本意だが、こちらも、力づくで奪い取らなければならない」
深くかぶったフードの下から、地を這うような声がもれてくる。ハグは、ローブでおおわれた両腕を大きく開いた。
ぞっとした。
真っ黒い円錐形の影のようなローブの真ん中に、楕円形を横に倒したような輪郭がうかびあがっている。その中には黒い円。
「じゃ、邪視っ!? 」
グゥオオオオ……っ!!
邪視の中から、無数の黒い蛇が踊りだしてくる。
四方八方に、鎌首をもたげ、あたしたちに襲いかかる。
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