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1 作戦会議
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しおりを挟む「……ほぇ?」
つくえの横に立てかけれてる全身鏡。窓の前のゆりイスが映りこんでいる。そこに、ひとりの男子が座っていた。
赤いTシャツに、上につったってセットした髪。くりくりの二重で、こっちを見て、ニコニコ笑ってる。
「誠っ!」
「あはは。見つかっちゃった?」
それなのにふり返っても、現実のゆりイスの上に、誠の姿はない。
こ、これって……。
覚えがある。
あたしもこないだ、ハグに誘惑されて、鏡の世界に入り込んだ。そのとき、こんなふうに現実の世界から、あたしの姿は消えた。あたしの姿がうつるのは、鏡の中だけ。
「……もしかして、誠もハグに、鏡の中に閉じ込められたのっ!? 」
「ぶぶ~。ちがいます~。あ。オレが鏡の世界にいるのは正解ね。けど、ハグに閉じ込められたわけじゃないんだな~」
「こいつ。きのう、浅山に落ちてた冥界のリンゴを、自分から進んで食べたんだよ。で、それからちょ~しにのって、鏡の世界とこっちの世界を、自由に行き来してる」
「な……なんで、そんなあぶないこと……」
「綾に話さなきゃならないことがある。誠は、とりあえずもどって来い。ほら、豆」
ヨウちゃんは、虹色のインゲン豆の乗った平皿を、部屋の真ん中にさしだした。
「え~? オレ、またそれを犬食いしなきゃなんないの~? 和泉が、『あ~ん』して、食べさせてよ~」
「え、えっと……」
チラッとヨウちゃんの顔を見あげたら。ヨウちゃんは冷めた目のまま、正面を見すえて、「誠、あまえんな!」。
「あと、誠。オレらから見えてないと思って、調子こいて、綾に抱きついたりとかすんなよ。鏡でしっかり監視しとくからな」
……ヨウちゃん、きびし~。
だけど、なんだか、身に覚えがあるような……。
全身鏡を見たら、誠はよいしょと、ゆりイスから腰をあげていた。
夏の日を浴びる木目のゆか。現実の世界にはだれもいないのに、鏡の中には、サニエルパンツのポケットに手をつっ込んで、目が覚めるような赤いTシャツで、歩いてくる誠の姿がうつってる。
「とか、なんとか言って。葉児だって、和泉が鏡の世界に入ったとき。見えてないふりして、抱きついたりなんかしたんじゃないの~? つんのめっちゃいました~みたいなふりしたら、チュ~だってできるもんね。実は、しっかり鏡で位置確認してたりしてさ~」
「……は?」
ヨウちゃんのほっぺたが、噴火したみたいに赤くなった。
「え? もしかして葉児、マジで実践済みっ!? 」
え~~~~っ!?
あたし、ヨウちゃんの顔をガン見。
「あ、綾! 見んなっ! やってない! オレが、んなことするわけないだろっ!? オレは誠とちがって、紳士だからなっ!! 」
でも……。
真っ赤なほっぺを腕で隠して。ヨウちゃん、声までうわずっちゃってる。
これ「やりました」って、言ってるようなもんじゃん。
胸がドキドキしてきて、あたしはうつむいた。
そっか。あのキスは偶然じゃなかったんだ……。
あたしたちが別れていた苦しいとき。ヨウちゃんは、鏡の世界のあたしに、こっち側の世界から、そっとキスしてくれた……。
「イヤ~!! 葉児のヘンタイっ! エロガッパっ!! 」
「うるさい、誠っ! おまえはとっとと、豆食えっ!」
ヨウちゃんの持ったお皿から、インゲン豆がひとつ消えた――と思ったとき。
向かいに、パっと、誠の姿があらわれた。
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