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1 作戦会議
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しおりを挟むママはヨウちゃんが嫌い。ヨウちゃんといると、あたしが羽目をはずして、めちゃめちゃすると思ってる。
たしかに、それはあるけど……。
でもそれは、ヨウちゃんのせいじゃなくって。あたしが悪いんであって……。
「すみません。それでも、どうしても、綾さんに来てほしいんです」
ヨウちゃんは気をつけして、ママに深く頭をさげた。
「……はぁ? あなた、しつこいわね。母親が、きのうから寝込んでいる娘を、ほいほい、外に出すと思う?」
「……綾、これ、飲め」
ぼそっと耳元でつぶやいたヨウちゃんに、手渡されたのは、水筒。
「……ほぇ?」
「ショウガ湯だ。フェアリー・ドクターの魔力入りのな。めまいがおさまる。……これから、書斎で作戦会議をしたい。誠も来てる」
「い、行くっ!」
あたしは、水筒のふたを開けた。世にもめずらしい、虹色のショウガ湯を一気飲み。
わ……。のどが熱い。熱は胃まで直行。焼けつくみたい。
だけど、胃袋に落ちたとたん、胸がふんわりあたたかくなった。
目が、すっきり。玄関わきのくつだなも、その上の花びんもくっきり見える。頭の中がしゃんとして、脳みそが動き出す。
ヨウちゃんとあたしは、フェアリー・ドクター。
フェアリー・ドクターのつくった薬は、妖精に関わることに対してのみ、魔力を持つ。
あたしは半分妖精。だから、妖精のあたしの体にこの薬が効いたんだ!
「ヨウちゃん、行こうっ!」
あたしは、ママの横をすり抜けた。
玄関先のスニーカーをつっかけて、ヨウちゃんの腕をつかむ。
「ちょっ! ちょっと、待ちなさい! 綾っ! 葉児君っ!? 」
ママのさけび声が、玄関から追いかけてくる。
だけどあたしは、ヨウちゃんの腕を引っぱって、走る。
「あ、綾。へいきか?」
「うん、ヨウちゃんの薬のおかげで治ったっ! ママ、あたしはもう元気っ! ヨウちゃんちに行ってきま~すっ!! 」
「あ~。これでさらに、綾のお母さんに嫌われた~……」
頭には照りつける太陽。アブラゼミの声。
だけど、ヨウちゃんはず~んとしずんでる。
Tシャツの広い肩をちぢこめて、首はうなだれちゃって。もう、足元の黒い影に、体ごと飲まれていっちゃいそう。
「しょうがないよ。だって、ママ、あたしたちの話をぜんぜんきいてくれないんだもん」
ヨウちゃんちに続く急な坂を、あたしたちは、ならんでのぼっていく。
「アホ。おまえのお母さんの言うことは正論だぞ? ぐあいの悪い娘をふつう、外に出すか? どう考えても、悪いのはオレなんだよ。このままじゃ、サイアク、綾と引きはなされる……」
「え~?」
それは、ヤダぁ~。
「そしたら、どうする~? かけ落ちする~? ね? ヨウちゃん、あたしのことさらってよ! 結婚式の最中に」
「……やだ」
がっくし。
だよね。そんなことするのって、映画の中でだけだよね。
「オレは、みんなから祝福されて結婚したい」
「ほ、ほぇっ!? 」
アホ毛をゆらして、顔をあげたら、ヨウちゃんは冷めた目のままで、坂道を見つめてた。
だけど、チラッと横目でこっちを見たとたんに、ヨウちゃんのほっぺた、真っ赤に燃えあがる。
うわ~! うわ~っ!! うわ~っ!!
きゅ~んとして。あたしのほっぺたまで激熱になって。
あたし、ヨウちゃんの左腕に、両手でコアラみたいに引っついた。
「わっ!? 」
不意打ちを食らって、ヨウちゃんがよろける。
ママは「人前でイチャつくな」って怒るだろうけど。いいんだもんね。どうせ、ママ、すでに怒ってるもん。
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