ナイショの妖精さん

くまの広珠

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6 おとなになるということ

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 手芸部の部室の窓の外。

 夏休みの空には、きょうも入道雲があがってる。校庭の桜並木では、セミがジージーとうるっさい。

 いつも校庭を支配しているサッカー部員は、県大会の遠征中で。だから、校庭がやけに広々として、照り返しが強く感じる。


 誠……今ごろ試合かな……?


 あたしは、作業台の前で、ため息をついた。

「一年なのに、補欠で入れてもらえた!」ってよろこんでたっけ。

 夏休みなのに、誠としょっちゅう顔をあわせているから、こんなふうにガラガラの校庭は、空気の抜けたうきぶくろみたい。


 ヨウちゃんも、どうしてるんだろ……?


「浅山にハグを呼び込む方法を考えてみる」って言ってたけど。


「綾ちゃん、ぐあいでも悪いの?」


 顔をあげると、作業台の横に、有香ちゃんが立っていた。

 パッチワークにする布を十枚以上広げて、ぼーっとしていたから。有香ちゃんに心配されちゃったんだ。


「あ、ううん。なんでもない。ただ『暑いな』って思ってただけ」


 あわてて頭を起こしたら、雲の上を歩いているみたいに、頭の中がふわ~っとした。


「あ、あれ? やっぱ、なんかおかしいかも? 目の間がきゅ~ってなって、くらくら~ってする~」


「綾ちゃん、それは、めまいじゃないの? 生理は終わったんだよね? 熱中症?」


「でも、ちゃんとポカリ飲んでるよ~?」


 夏休み中の手芸部の活動は、秋の文化祭に向けた個人製作。だけど、仕上げなきゃならない期限は、まだまだ先だから、活動自体がゆる~い感じ。

 七人いる先輩も、きょうは大川先輩と住吉先輩しか来ていない。で。ふたりともさっきから、採寸台の前でおしゃべりしている。


「毎日暑いから、バテ気味なのかもね。三時で部活が終わりだから、帰ったら早く帰って寝なよ」


「……うん」


 ぼんやり窓の外を見ていたら、見慣れた琥珀色の髪が校門から入ってきた。


「あっ! ヨウちゃんっ!! 」


 作業台の前からいきおいをつけて、立ちあがる。とたんに、体がふわ~と左にぶれた。


 あわわ? なんか、足に力が入らない。


「綾ちゃん、ホントにだいじょうぶ?」

「あはは。ただの立ちくらみ」

「そろそろ、部活を終わりにしようか?」


 小池先輩が言ったから、あたしたちは「は~い」とさけんだ。

 クラっとしたのは一瞬だけ。うん、もう元気。

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