ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 長い長い夏休み

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 そういえば、真央ちゃんは小学校低学年のころ、よくおじいちゃんの話をしてた。

 親が共働きだから、親が帰ってくるまで、同居のおじいちゃんとおばあちゃんがめんどうを見てくれたんだって。


「……うちさ。じいちゃんが生きてたころ、バイクの後ろに乗っけてもらって、ツーリングにつれて行ってもらったりしてたんだよね。キャンプに行ったり、ハングライダー教わったり。じいちゃんて、船舶の免許も持ってたから、船で釣りしたりさ。カッコイ~だろ~? 

しかも、うち、じいちゃんにとって、年の離れた孫だったから、すっげ~かわいがってもらったんだ。うちはじいちゃんにあこがれて。じいちゃんの言葉づかいをマネして。じいちゃんの態度もマネして……。……でも、小四の時、じいちゃんが死んじゃってさ……」


「そうだったね……」


 夏の日が廊下を暑く照らしている。

 小四のあのころ。真央ちゃんは、学校でずっとしょんぼりしてた。

 あたしと有香ちゃんは、真央ちゃんを笑わせたくて、必死だった。


「それからなんだよね……。うちが、じいちゃんみたいな人を見ると、キュンってするようになったのって。たぶんさ。その人のことが好きなんじゃなくって、きっとまた、じいちゃんに会いたいだけなんだよ……」


 鼻の頭をかいて、真央ちゃんが笑う。

 なんて言ったらいいかわかんなくって。あたしは、真央ちゃんの着物の太い腰に、両手をまわして、抱きついた。


「わっ!?  綾?」


 お茶室をかこむ廊下。閉められた障子の向こうから、片づけをする茶道部員の声や食器のぶつかる音がきこえてくる。

 人はみんな、この世にひとりきり。

 だから、好きな人とおんなじ人には、どこをどんなにさがしたって、ぜったいに出会えない。

 そんなこと、真央ちゃんだってわかってる。

 わかってても、似たような人をさがして。面影を求めて。

「ちがう」って実感して。つきはなされた気分になって。

 それでもまた、似てる人をさがして……。


「綾……泣かなくっていいって。うちはへいきだって。……綾」


 真央ちゃんまで、鼻をすすってる。




 ふたり、泣きはらした目で縁側に行くと、ヨウちゃんが鼠色の浴衣で、縁側に座っていた。


「……って、え? 綾? 河瀬? な、なにがあったっ!? 」


 赤い目のあたしたちに気づいて、へっぴり腰で立ちあがるヨウちゃん。


「中条、それ、クラスのアイドルのするポーズじゃないぞ」


 真央ちゃんがふきだした。

 あたしもつられて、ふきだしちゃう。


「安心しなよ。綾は重症じゃないから。せ~り、せ~り。きょう、はじめて、生理になったの!」


「わっ!!  真央ちゃんてば、あからさますぎっ!」


「……せ……。え……?」


 う……気まずい……。


「……そ、そうか。そ、それは……大変だな」


 ヨウちゃんはほおを赤らめて、視線を横にそらしてる。


「だから中条。綾はもう、お子ちゃまじゃないんだからな。綾のこと、大事にしてやれよ」


 真央ちゃんが、あたしの背中をぽんっと押した。


「真央ちゃん……」


 ふり返ったあたしに、真央ちゃん、にっかりピースサイン。


「うち、お茶会の片づけがあるから。また、登校日に学校でな」


「ま、真央ちゃん、ありがとう!」


 ふわふわゆれながら遠ざかっていく、梅色の着物のそで。

 真央ちゃんはオトコマエ。

 オトコマエだけど、ものすご~く女の子。


 そんな真央ちゃんを好きで好きでたまらないっていう男の子……かならずあらわれるよ……。



「帰るか」


 ふり返ったら、ヨウちゃんが縁側から立ちあがっていた。


「あ、うん。え? ま、待って、待って! あたし、下駄、玄関に置いたまんま」

「ここに持って来てる。ほら、はいて帰るぞ」

「……あ、ありがと」


 さしだされた手を取って、しゃがんで自分の下駄をはいて。うつむいたあたしの頭に、ぼそっと声がふってきた。


「……大事にするよ」


「えっ!? 」


 顔をあげたときにはもう、ヨウちゃんは庭へ歩き出している。


「ま、待って! 今、なんてっ!? 」


 玉砂利をずる下駄の音。

 あわてて追いかけたけど。ヨウちゃんのほっぺた赤いから、きいても、照れちゃって、もう二度と言ってくれないだろな。

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