ナイショの妖精さん

くまの広珠

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4 セミの鳴く木陰で

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「そうか。誠に羽を見せたのか……」


 携帯電話の向こうから、ヨウちゃんの声がきこえてくる。

 あたしの胸をあったかくする、低いささやき。


「ごめんね、ヨウちゃん。誠に『どうしても』ってたのまれたの」


「……いいよ、べつに」


 ベッドに、ひざをのばして座って。見あげたカーテンのすき間には、夜空がのぞいてた。

 こうやって、自分の部屋でもヨウちゃんの声をきけるのって、なんて幸せなことなんだろう。

 夕飯を食べたあと、ドキドキでヨウちゃんのスマホに電話してみたら、嫌がらずに出てくれた。

 期末テストの勉強中だったみたいなのに、今はそっちのけで、あたしの話をきいてくれる。


「誠は信じられる。それに、とことん味方になってくれると思う。けど……」


「誠になにかあったらって……不安?」


「……ああ。でも、さすがにふっきれた感もあるな。先のことを心配しすぎてもしかたないって、なんか、だんだん、割り切れてきた」


「そうだよ、ヨウちゃんっ! 少しはあたしのアホっ子ぶりを見習ってよっ!! 」


 ケータイの向こうで、ヨウちゃんが吹き出した。


「なんだよ、それはっ!」


 もう……あたしは真剣に言ったのにぃっ!


 だけど、うれしい。ヨウちゃんの笑い声。

 きいてるだけで、悪いことなんて二度と起こらないって、本気で思えてくる。

 笑い声がやんだ。


「……綾……おまえさ……自分が思ってるほど、アホっ子じゃないぞ……」


「……え?」



「……綾の日記……読んだ……」


 ドキッとした。

 やっぱり、ヨウちゃんにバレてたんだ。

 あたしが羽を切りたくない、本当の理由……。


 電話の向こうが静かになる。カーテンの外で、夜になったことも気づかないで、セミが鳴いてる。


「……綾の覚悟はわかった。けど……じっさいにそんなことはさせないから。……ぜったいに」


「……うん……」


 涙がほっぺたを伝って、ケータイを持つ手をぬらしていく。


 させないで……。ヨウちゃん……。


「……あれ?」


 ふいに、電話の向こうで声がとびはねた。


「え? ヨウちゃん? どうかした?」


「なんだ……? なにか……。ごめん、綾。ちょっと確認する。電話切る」


「う、うん――」






「それじゃあ、チコリのビンまで消えたのっ!?」


 浅山の登山道を歩きながら、あたしは右横のヨウちゃんを見あげた。


「……ああ。今朝、書斎に入ったときに気づいた」


 ヨウちゃんは眉間にしわを寄せて、細い土ののぼり坂をにらんでる。

 夏休みを迎えた空は、毎日、毎日、毎日、青空。

 浅山の中はアブラゼミの声がいっぱいで、巨大な耳鳴りみたい。


「ね、こないだは、ゴースのビンが消えたんでしょ?」


 期末テストの前の晩。ヨウちゃんに電話していたら、とちゅうで、ヨウちゃんは電話を切った。テストの日にきいたら、「ゴースのビンが消えた」って言ってた。


「チコリとゴースと、これで二個目……?」

「だな。さすがに『気のせい』じゃ、すまされない。ほっとくわけにいかないから、オレも今朝は確認した」

「確認?」

「カレンデュラって花があるんだ。和名だとキンセンカ。フェアリー・ドクターの魔力をかけると、その花びらで透視能力を引きだせる」

「と~しのうりょくって……ヤダっ!! 服が透けて、はだかが見えちゃうのっ!?」

「アホか! んな、少年マンガの萌え要素みたいなんじゃなくて、もっと現実的でつかえるヤツだよ。見えるのは、残留映像。花びらをかざすと、その場所でなにがあったのか見えるようになる」

「ホントにっ!? それはそれで、映画に出てくる魔法みたい! ね、ね、なにが見えたのっ!?  やっぱり……ハグ……?」


 ぞくぞくぞくと、寒気がした。

 あたしは両手をのばして、横のヨウちゃんの左腕に、ぎゅっと巻きついた。


「うわっ!?  お、おい、綾っ!? 」


 ……だって、怖い。


 ヨウちゃんにしがみついていれば、少しは胸が軽くなれる。ヨウちゃんがここにいるって、実感できる。


「……ハグじゃなかったよ。ビンを盗んだのは、ヒメだった」


 ヨウちゃんはふっと息をはいて、また正面に向き直った。


「……ヒメ?」
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