ナイショの妖精さん

くまの広珠

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1 黒ウサギと鏡の国

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 わ……カワイイ~!


 もこもこの毛。

 ウサギがあたしの腕の中で丸まってる。

 あたしはその背中をふんわりなでた。


「……イタイ」


 ウサギの耳がピクッと震えた。


「……え?」


「そこも、イタイ」


 ウサギは目をぎゅっとつぶる。

 もこもこの毛をかきわけてみて、ぞっとした。

 皮膚に、赤い切り傷がいっぱいついてる。


「こ、これ……どうしたの……?」


「……悪いヤツにやられたの」


 ハグにやられたんだ……。


 ハグは、黒い妖精。妖精からつけられた傷は、人間の薬では治せない。


 治せるのは、フェアリー・ドクターの薬か。妖精のりんぷん……。


「プーカ! あたしが、傷を治してあげるっ!! 」


 あたしはすっと肩の力を抜いた。肩甲骨から銀色の羽がとびだして、背中で広がっていく。

 銀色のアゲハチョウの羽。

 あたしは羽をゆっくりとはばたかせた。羽から銀色のりんぷん出てきて、ハラハラと宙に舞う。

 うす暗い廊下に、銀色の明かりが、星くずみたいにふりそそぐ。

 りんぷんが、黒ウサギの背中に吸い込まれていく。


「妖精さん、ありがとう……。ね、名前は?」


「あたし……? あたしは、和泉綾あや」


「そっか……綾ちゃんか……。カワイイ名前だね」


 ウサギがふんわり目を閉じる。


「ね、治った? もう、痛いところない?」

「ごめんね、綾ちゃん……もうちょっと痛いかも……」

「……まだ?」

「もう少し……」


 あたしのこめかみを、汗が伝った。

 腕の中の小さなウサギに、銀色のりんぷんがどんどんそそがれていく。


 小さいはずなのに。

 すでにりんぷんは、ウサギの耳や背中にふりつもっているのに。

 なんでまだ……傷が治らないんだろう……。


 これじゃまるで、相手は抱けるサイズじゃなくって、天井までそびえるくらい大きな黒い塊みたい……。


 背筋がぞくっと寒くなった。

 あたしは肩の力を込めて、背中の羽をしまった。


「……綾ちゃん?」


 プーカが、パチリと目を開ける。


「どうしちゃったの? ぼくね、もう少し、りんぷんがほしい……」


「……なんで……?」


「だって、ぼく、まだ傷がぜんぶ治ってないもの」


「……なんで……?」


 背中を寒気が押し寄せてくる。


 なんで、このウサギ……しゃべれるの……?

 なんで……鏡の中に閉じ込められてるの……?


「そっか。ぼく、まだ綾ちゃんに、ぼくを閉じ込めた悪いヤツの名前、言ってなかったね」


 プーカは、ぶるると身を震わせると、ぴょんっとあたしの手からとびおりた。


 ゆかにお尻をつけたまま、あたしはずるずる後ろにさがる。



 目の前で、黒いウサギの体が、ふくらんでいく。

 黒い風船みたいに、膨張して、ゆかの上に立ちあがっていく。

 ウサギの形がくずれた。

 ぶわっと噴き出したモヤが、黒い人影を形づくる。


 モヤ……。

 黒いモヤ……。


「……わたしを鏡の中へ閉じ込めた極悪人。そいつの名前は……中条なかじょう葉児」



 人影の口あたりから、しわがれた老婆の声が告げた。

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