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3 妖精と花火と綾桜
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しおりを挟む「――かあさん? 和泉を見つけたから。……うん。これから家にもどる。誠が心配してると思うから、そう伝えといて」
中条はスマートフォンを耳からおろして、受信を切った。
「……スマホ……買ったんだ……」
「……ああ。入学祝いにもらった」
中条はジーンズの後ろポケットにスマホをねじこんでいる。
「オレは、コンビニで飲み物買ってから、帰るから。和泉は先に、家行きな」
「……わかった」
見あげると、高台ののぼり坂にてんてんと街灯がともっている。民家には四角い窓明かり。
「……あとで、書斎に来て」
「……え?」
低いつぶやきに気づいて、顔をあげたとき、背の高いやせた背中はもう、青信号を走っていった。
ドン!
ドンっ!
太鼓を打つような音が、夜空からきこえてくる。
そのお腹にひびく音がして、ほんの少しタイムラグがあって。パッと、空に銀色の光が花開く。
「わぁ……」
クラスメイトたちの歓声があがった。
自宅カフェ「つむじ風」の店内の照明をさげて。
みんな、窓の外の花火に夢中になってる。
ウッドデッキに出ているのは男子たち。パラソルの下のテーブルに、ジュースやスナック菓子をひろげて。こぶしをつきあげて、ギャーギャー。
あ~あ。優雅なお店がだいなし。
窓際の席を、真央ちゃんや有香ちゃんとかこんで、あたしはむ~と、ほっぺたをふくらませる。
中条のお母さんがみんなにごちそうしてくれた、お茶とケーキ。なのに男子たちは、持ち込んだスナック菓子のくずをまき散らしてるし。
あたしが文句を言ったら、お母さんは「いいのよ、きょうは貸し切りなんだし。好きにつかってちょうだい」って笑ってた。「それより、綾ちゃんに会えてうれしいわ」なんて、言ってくれるんだもん。じ~んときちゃう。
「しっかし、いいお店だな。ここが中条んちとはね~」
はじめて来た真央ちゃんは、店内をキョロキョロと見まわしてる。
「正確には、中条のお母さんの店だから。ここ、重要ね。あいつの趣味じゃなくて、親の趣味」
有香ちゃん、ぴしゃり。
あたしはぼんやり、となりのイスの背もたれにかかっている、金魚の入ったビニール袋をながめた。
持ち主の誠は、ひょっとこのお面をかぶって、ウッドデッキでもりあがってる。
あたしがカフェに入ってきたとき、誠は「よかったぁ」と、眉尻をさげた。
だけど、花火が鳴りだしたら、もうとなりの席にもどってこない。
やっぱり……気まずくなっちゃったな……。
ハァとため息をついたら、窓でまた、ドンっと音がして、花火が開いた。
「わあっ!」
店内のほかの女子たちも、歓声をあげる。
「あ、おかえり。葉児」
お母さんの声に、あたしはハッとふり返った。
玄関で、中条がくつをぬぎながら、コンビニ袋をお母さんにさしだしている。
なにかをぼそっと話して、そのまま階段をくだっていく。
……あ。
「おい~! 葉児は~っ!? 」
ウッドデッキの窓を開けて、大岩がカフェをのぞきこんできた。
「今、帰ってきたみたいだよ」って、有香ちゃん。
「ひとりでかっ!? カノジョづれじゃねぇだろなっ!」
「こだわるな~」
真央ちゃん、あきれ顔。
「大岩っ! 今の見た! 花火の色、赤から青にかわったぞ~!」
誠に呼ばれて、大岩はまたウッドデッキにとびだしていった。
「マジでか? ちくしょ~、見逃したっ! じゃー、次! 何色の花火が来るか、みんなでポテチかけようぜっ!! 」
「……ちょっと、トイレ」
あたしはイスから立ちあがった。
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