ナイショの妖精さん

くまの広珠

文字の大きさ
上 下
412 / 646
3 妖精と花火と綾桜

28

しおりを挟む

「――かあさん? 和泉を見つけたから。……うん。これから家にもどる。誠が心配してると思うから、そう伝えといて」


 中条はスマートフォンを耳からおろして、受信を切った。


「……スマホ……買ったんだ……」


「……ああ。入学祝いにもらった」


 中条はジーンズの後ろポケットにスマホをねじこんでいる。


「オレは、コンビニで飲み物買ってから、帰るから。和泉は先に、家行きな」


「……わかった」


 見あげると、高台ののぼり坂にてんてんと街灯がともっている。民家には四角い窓明かり。


「……あとで、書斎に来て」


「……え?」


 低いつぶやきに気づいて、顔をあげたとき、背の高いやせた背中はもう、青信号を走っていった。





 ドン!


 ドンっ!


 太鼓を打つような音が、夜空からきこえてくる。

 そのお腹にひびく音がして、ほんの少しタイムラグがあって。パッと、空に銀色の光が花開く。


「わぁ……」


 クラスメイトたちの歓声があがった。

 自宅カフェ「つむじ風」の店内の照明をさげて。

 みんな、窓の外の花火に夢中になってる。

 ウッドデッキに出ているのは男子たち。パラソルの下のテーブルに、ジュースやスナック菓子をひろげて。こぶしをつきあげて、ギャーギャー。


 あ~あ。優雅なお店がだいなし。


 窓際の席を、真央ちゃんや有香ちゃんとかこんで、あたしはむ~と、ほっぺたをふくらませる。

 中条のお母さんがみんなにごちそうしてくれた、お茶とケーキ。なのに男子たちは、持ち込んだスナック菓子のくずをまき散らしてるし。

 あたしが文句を言ったら、お母さんは「いいのよ、きょうは貸し切りなんだし。好きにつかってちょうだい」って笑ってた。「それより、綾ちゃんに会えてうれしいわ」なんて、言ってくれるんだもん。じ~んときちゃう。


「しっかし、いいお店だな。ここが中条んちとはね~」


 はじめて来た真央ちゃんは、店内をキョロキョロと見まわしてる。


「正確には、中条のお母さんの店だから。ここ、重要ね。あいつの趣味じゃなくて、親の趣味」


 有香ちゃん、ぴしゃり。

 あたしはぼんやり、となりのイスの背もたれにかかっている、金魚の入ったビニール袋をながめた。

 持ち主の誠は、ひょっとこのお面をかぶって、ウッドデッキでもりあがってる。


 あたしがカフェに入ってきたとき、誠は「よかったぁ」と、眉尻をさげた。

 だけど、花火が鳴りだしたら、もうとなりの席にもどってこない。


 やっぱり……気まずくなっちゃったな……。


 ハァとため息をついたら、窓でまた、ドンっと音がして、花火が開いた。


「わあっ!」


 店内のほかの女子たちも、歓声をあげる。


「あ、おかえり。葉児」


 お母さんの声に、あたしはハッとふり返った。

 玄関で、中条がくつをぬぎながら、コンビニ袋をお母さんにさしだしている。

 なにかをぼそっと話して、そのまま階段をくだっていく。


 ……あ。



「おい~! 葉児は~っ!? 」


 ウッドデッキの窓を開けて、大岩がカフェをのぞきこんできた。


「今、帰ってきたみたいだよ」って、有香ちゃん。


「ひとりでかっ!?  カノジョづれじゃねぇだろなっ!」


「こだわるな~」


 真央ちゃん、あきれ顔。


「大岩っ! 今の見た! 花火の色、赤から青にかわったぞ~!」


 誠に呼ばれて、大岩はまたウッドデッキにとびだしていった。


「マジでか? ちくしょ~、見逃したっ! じゃー、次! 何色の花火が来るか、みんなでポテチかけようぜっ!! 」


「……ちょっと、トイレ」


 あたしはイスから立ちあがった。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

たぬき

くまの広珠
児童書・童話
あの日、空は青くて、石段はどこまでも続いている気がした―― 漁村に移住してきたぼくは、となりのおばあさんから「たぬきの子が出る」という話をきかされる。 小学生が読める、ほんのりと怖いお話です。 エブリスタにも投稿しました。 *この物語はフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。

がきあみ ―閻魔大王がわたしたちに運命のいたずらをした―

くまの広珠
児童書・童話
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」 クラスメイトの宝君は、告白してくれた直後に、わたしの前から姿を消した。 「有若宝なんてヤツ、知らねぇし」 誰も宝君を、覚えていない。 そして、土車に乗ったミイラがあらわれた……。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 『小栗判官』をご存知ですか? 説経節としても有名な、紀州、熊野古道にまつわる伝説です。 『小栗判官』には色々な筋の話が伝わっていますが、そのひとつをオマージュしてファンタジーをつくりました。 主人公は小学六年生――。 *エブリスタにも投稿しています。 *小学生にも理解できる表現を目指しています。 *話の性質上、実在する地名や史跡が出てきますが、すべてフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

おねしょゆうれい

ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。 ※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

箱庭の少女と永遠の夜

藍沢紗夜
児童書・童話
 夜だけが、その少女の世界の全てだった。  その少女は、日が沈み空が紺碧に染まっていく頃に目を覚ます。孤独な少女はその箱庭で、草花や星月を愛で暮らしていた。歌い、祈りを捧げながら。しかし夜を愛した少女は、夜には愛されていなかった……。  すべての孤独な夜に贈る、一人の少女と夜のおはなし。  ノベルアップ+、カクヨムでも公開しています。

桜ヶ丘中学校恋愛研究部

夏目知佳
児童書・童話
御手洗夏帆、14才。 桜ヶ丘中学校に転入ほやほや5日目。 早く友達を作ろうと意気込む私の前に、その先輩達は現れたー……。 ★ 恋に悩める子羊たちを救う部活って何? しかも私が3人目の部員!? 私の中学生活、どうなっちゃうの……。 新しい青春群像劇、ここに開幕!!

処理中です...