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3 妖精と花火と綾桜
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しおりを挟むさっきから、なんだか無口になっちゃって、あたしは誠の後ろを歩いてる。
誠もぜんぜんしゃべらない。
甚平のそでから出ている誠の手。いつのまにか、くるぶしの骨がごつっとしていて、細い手首のわりに、手は大きい。人差し指にかけているのは、金魚の入ったビニール袋。
誠に「とりあえず、金魚はあげるよ」って言われたけど、「ううん」って首を横にふった。
――それ、カノジョにあげるのか?――
さっきの金魚すくい屋のおじさんの声が、まだ耳にのこってる。
誠のカノジョだってまちがえられるのに、慣れちゃいけなかった。
あたしがお気楽に笑ってる間、誠はきっと、ずっと、まよってた――。
浅山のキャンプ場からおりる道。
「ちょっと早いけど、葉児の家に行こっか?」
誠に言われて、あたしたちはお祭り会場から出て歩いてる。アスファルトの幅の広い道だから、たまに横を車がかけ抜けていく。
……どうしよう……。
あたしが誠とつきあっても、日記をつけるのをやめなければいいだけ。
あたしはヨウちゃんの観察をやめないで、もしなにかあったときには、すぐにとびだせばいいだけ。
だけど……それって、誠にしつれいなんじゃない?
あたしは、心の底では、このままここから動くつもりなんか、ぜんぜんないのに。
こんなあたしのままで、本気で好きでいてくれる誠とつきあうなんて……。
視線の横に、銀色の光が流れた。
そっちに目を動かして、あたしは立ちどまった。
アスファルトのわきに土の横道がのびていて、「登山道入り口」という看板が立っている。
胸をぎゅっとしめつけられた。
わすれられるわけない。
毎週のように、この道をのぼって行ったこと。
先に歩くジーンズの長い足を、あたしはいつも追っていた。
登山道の先で、チラチラと銀色の粉が舞った。
トンボの形をした銀色の羽が、夕日に照らされながら、山道を飛んでいく。
羽は手のひらサイズの人の背中についている。中学生くらいの女の子。ふわふわロングの金髪で、白いロングドレスを着た――。
ヒメ……?
あたしは登山道に足を踏み入れた。
ダメ……。
こっちに行っちゃダメっ!
胸が「やめろ」って騒いでる。
だって、体がつれもどされる。
あのころのあたしに……。
なのに、足は勝手に動いてく。
ふわっと花のにおいがした。
「……わ……」
あたしは立ちどまった。
登山道の奥の雑木林に、こもれ日が落ちていた。
その下に、たくさんのお花が咲いている。
タンポポ。レンゲ。シロツメクサ。ノギク。
夕日をあびて、オレンジ色にかがやいてる。
「チチチチチ……」
スプーンとフォークをかちあわせるような声がした。
見あげると、オレンジ色の空から、長いふわふわパーマの妖精がおりてきた。
「ヒメ……」
「キンキンキンキンキン」
もうひとりの妖精も花の上におりてきた。金髪の髪を頭の上でくるんとまとめている。きゅっとつりあがりがちの青い瞳。バレリーナみたいな白い衣装。
「チチ……」
「キンキンキン」
「チチチチチ」
妖精たちがお花畑を飛びかっている。
くるくる宙返り。手を取り合ってダンスする。
明るい、はじけるようなダンス。
胸がこがれるように熱くなった。
ここは……あたしの場所……。
手にシロツメグサをつんでみる。
タンポポもつんでみる。
あたしの手の中に、黄色と白の明るい色彩がはじける。アカツメクサをつんだら、そこにピンクが増えた。
もっと、もっと!
あたしの胸が、たくさんの色彩であふれていく。
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