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3 妖精と花火と綾桜
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しおりを挟む「なんだよ、誠も和泉と花火デートすんのかよ? ったく、あっちも、こっちも。リア充ばっかでうぜぇ」
校庭を大岩が歩いてきた。筋肉質な太い手足。誠と同じ青色のサッカーのユニホームを着ている。
大岩もサッカー部員。やっぱり休憩中みたいで、首にタオルを巻いて、スポーツドリンクのペットボトルをあおってる。
「……あっちも、こっちもって?」
誠が首をかしげると、大岩は「あっち」とあごをしゃくった。
その方を見たら、中条が卯月先輩と校門へ向かって歩いていた。腕を組んでる。
背の高い中条に、黒いロングヘアで、やっぱり背が高い卯月先輩はお似合い。
「人が毎日、汗流してるっていうのに、あいつは、いいご身分だよな。どうせとっくに、キスぐらいすませてんだぜ? 部活してないんだから、放課後、時間がたっぷりあるんだもんな」
……キス……?
一瞬、想像しちゃいそうになって、あたしはあわてて、脳みその電気をプチンと切った。
「あ~ムカつく。マジでジャマしてやりて~。なんかいい方法ね~かな~?」
大岩は頭をガリガリかいている。
「やめときなよ、大岩」
有香ちゃんがあたしの横で腕を組んで、窓越しにさとした。
「そうだよ。人のことなんか、ほっときなって。人は人。自分は自分じゃん!」
あたしが言ったら、誠が目を丸くして、あたしを見た。
有香ちゃんもメガネの奥で、切れ長の目をパチパチさせている。
「……ほぇ? あたし、なんかまちがったこと言った?」
「う、ううん」
誠が首を横にふる。
「お、そーだ! 花火だっ!! 」
大岩がポンッと手を打った。
「あいつら、ぜってー花火デートする気だぞ! っしゃ! いい方法思いついたっ!」
「え~? 大岩~?」
あたしたちのヒンシュクなんか丸無視で、大岩はひとりで、こぶしをかためてる。
次の日、教室は大騒ぎになっていた。
お昼休みにとつぜん、大岩がクラス会議をはじめたから。
大岩が黒板に大きく書いたのは、「六月二十一日の花火大会は、自宅カフェ『つむじ風』でクラス会」って文字。
「は~? なに、急に言い出してんだよ、大岩~!」
「わたし、その日カレシとデートなんだけど!」
男子も女子もギャーギャー、大岩につめよっていく。
「ざんねんだったな。デートのヤツはキャンセルしろよ。クラス会には、全員参加! 部外者は立ち入り禁止っ! 守れなかったヤツは罰として、トイレそうじ一ヶ月の刑なっ!」
「なんだよ、おまえ、ナニサマだよ?」
「勝手に決めんな~」
わめく生徒たちの中で、廊下からもどってきた背の高い男子が、つかつかと大岩の立つ教壇にのぼっていった。
「おい、大岩! なんだよ、これっ!」
中条が、大岩のワイシャツの首をぐいっとつかみあげる。
「勝手に人んち、つかうなっ!」
「えっ!? つむじ風って、中条君ちなのっ!? 」
女子たちの声がワンランクあがった。
「そう、行ったことある」って言ったのはリンちゃん。
「でも……わたしも当日、カレシとデートなんだけど……」
って、リンちゃんにもカレシ、できたんだっ!!
だけど大岩は、ニヤっと口をゆがめて笑った。
「なに怒ってんだよ、葉児。オレはおまえんとこの店が、花火を見るには絶好のスポットだと思って、チョイスしたんじゃねぇか。きのう、おまえの親に電話して、すでに予約取ってるからな。金は払うんだし、オレら客だろ?」
「おまえな~……」
中条、歯ぎしりしてる。
なんなの、いったいっ!?
「綾ちゃん……これが大岩の言ってた、『ジャマしてやる』っていう作戦かも」
あたしのつくえの横にイスを持ってきて座って、有香ちゃんが耳打ちした。
そっか。大岩は、中条が卯月先輩とデートできないようにって。
「せ、せこ~い」
「同感」
前の席で、真央ちゃんもあきれ顔。
だけど、大岩は教壇で胸をはった。
「てなわけで、みんな当日、七時半に現地集合なっ! 会費、ひとり三百円!」
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