ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 カノジョとクラスメイトの境界線

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「うちはさ、正直、前から、中条より誠のが、綾には合うと思ってたよ。なんていうか、波長があってるみたいなさ~」

「うん。そんなこと、真央と前にも話してたね。綾ちゃんだって誠といるとラクって、よく言ってるじゃない。それって、人とつきあっていくうえで、大事なことだと思うよ」


 有香ちゃんが黒縁メガネ越しに、あたしにほほえんでくれる。


「うわ~ん! 和泉のまわりがいい友だちばっかで、オレうれし~っ!」


 誠ったら、腕で目を隠して、天井見あげて、ウソ泣きの号泣。

 なんだかコントを見てるみたいで、おかしくなった。


「あ! 綾ちゃんが笑ってる!」


 有香ちゃんが、つくえに手をついてさけんだ。

「綾、笑え、笑え~」って、真央ちゃんは、あたしのわきの下をくすぐってくる。

「きゃ~」って悲鳴をあげながら、あたし、ケラケラ笑ってた。


 だけど、廊下から帰ってきた男子が、誠の席の後ろに座ったとたん、あたし、かたまっちゃった。

 ヨウちゃんは、はしゃいでいる前の席を無視して、自分のつくえの中から教科書を取り出している。

 真央ちゃんが、あたしをくすぐるのをやめた。有香ちゃんも誠も、息をとめてる。


「……ね。そろそろ、あたしたちも授業の準備しよう」


 あたしがつぶやくと、有香ちゃんがうなずいた。


「そうだね。わたし、自分の席に帰るよ」


 真央ちゃんも自分のつくえに向き直る。


「ど~しよ、オレ、次の数学、出席番号順で、ぜったいあてられるんだよね~。和泉ぃ、宿題の答え合わせしない~?」

「うん、いいよ~。でもたぶん、あたしもまちがってるよ?」


 となりの席同士で、誠と頭をくっつけて、宿題の見せ合いっこ。「ここちがう」とか「和泉のほうが、合ってない?」とかくすくすやってたら、後ろから、ずっと鼻をすする音がきこえてきた。


 ……あ……ヨウちゃんも花粉症かな……?


 あたしのバカ。

 気にしないようにしてるのに。


 あたしはそっと、自分の手のひらを開けてみた。


 虹色のバラのつぼみ……。


 あれは本当にただの夢?





「綾、本当にきょうもうちらと部活見学行かないの?」


 眉をひそめた真央ちゃんに、あたしはうなずいた。


「うん。あたし、放課後、用事があるから」


「……そっか。ひとりで落ち込むとかじゃないなら、わたしたちはいいんだけど……」


 有香ちゃんが不安げに、あごにこぶしをそえてる。

 今は、友だちのやさしさが身に染みる。


「そんなんじゃないよ。本当に用事だって。だから、気にしないで! じゃあ、あしたね」


 にっこり笑って、ふたりに大きく手をふって、昇降口にかけおりて。

 ひとりになったとたんに、ほっぺたの筋肉の力が抜けて、あたし、足元を見る。


 放課後の中学の校庭は、部活動をする生徒たちであふれてる。

 グランドを走る、サッカー部員。砂場で走り幅跳びをしている、陸上部員。野球場からのかけ声は野球部員。

 真央ちゃんと有香ちゃんは、きょうは吹奏楽部の見学に行くって言っていた。誠はサッカー部に入部を決めたみたい。

 だけど、あたしはきょうもひとりで、校門をくぐり抜けた。


 大通りに出て、道を左に。うちとは反対方向へ。


 胸がぐらぐらゆれていて、本当はぜんぜん落ちつかない。

 一歩、一歩、踏みだすたびに「いいのかな?」ってまよっている自分がいる。


 だけど、足は覚えてる。
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