ナイショの妖精さん

くまの広珠

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1 花田中学一年生

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 ふわりと、あたたかい風が、肩までのあたしの髪を舞わせた。


「くしゅん」


 あたしはくしゃみをした。



「和泉ぃ~」


 昇降口から出てきた誠が、こっちに走ってくる。

 ついちょっと前まで、ランドセルをカタカタゆらしていた誠が、今は紺色のブレザーで、肩にスクールバッグをかけている。


「なに、誠?」


 紺色のブリーツスカートをひらめかせて、あたしは誠に歩み寄った。


「和泉、だいじょうぶ?」


 あたしを見つめる、誠の目のふちが赤い。


「だって……和泉もうわさ、きいたんだろ?」

「うわさ……?」


「だから……葉児が……」


「……ああ。うん……きいた」


 あたしは「えへへ」って笑った。


「つきあうことになったんでしょ? えっと……なんとか先輩と」


卯月文うづきふみ先輩だって。休み時間に廊下に呼び出されたときに、告白されて。オッケーしたって。和泉……だいじょうぶ? あ、友だちは? 永井ながい河瀬かわせ

「有香ちゃんと真央ちゃんは、放課後、部活見学に行くって言ってたよ。料理部のぞくって」

「和泉は……?」

「あたしは……まだ入る部活決めてないし。きょうはもう帰るんだ」


 あたし、ちゃんと口元を持ちあげて笑ってるのに、なんでか、誠の目はうるんでる。


「……きょうぐらい友だちといてよ。こういうときは、とにかく、ひとりにならないほうが、いいんだよ……」


 誠って、やさしい……。


 あたしがヨウちゃんのことで落ち込んだとき、誠はいつも、あたしのそばにいてくれる。


 でも、甘えてばっかりじゃダメだよね。


 小六のクリスマス以来、誠は自分の気持ちを言わない。だからもう、誠の気持ちは、あたしとは、ちがうところにあるのかもしれない。

 それでも、もしも、誠の気持ちがクリスマスのときのままだったら。

 あたし、誠にムダな期待をさせることになる……。


「なんで? あたしはぜんぜん平気だよ?」


 頭のてっぺんでアホ毛をゆらして、あたしは「あはは」って笑った。


「それより、きょうはね、見たいドラマの再放送があるんだ。早く家に帰って、見なきゃっ!」


 誠に手をふって、あたしは走り出した。



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