387 / 646
1 花田中学一年生
5
しおりを挟む「ホントだ~。文の言うとおり、マジでイケメンじゃん!」
「これで、こないだまで小学生って、もうサギだよ~」
ふり返ったら、教室の後ろのドアから、教室をのぞきこんでいるのは、うわばきの色が黄色い、二年の女子たちだった。
キャーキャー、手を取りあって笑う先輩たちに、教室の一年生たちは、こぞって眉をひそめている。
「……なんだ。また葉児のファンかよ?」
後ろのロッカーに背中でもたれて、大岩が舌打ちした。
「……あの……なんですか?」
大岩の横でヨウちゃんも、しらっと冷たい目で腕を組む。
「ヤダぁ~。そんなに怖い目しないでよ~。ねぇ、ちょっと廊下に出てきて。文が中条君に話あるんだって」
右の先輩が、ヨウちゃんに手招きしてる。
い……イヤな予感……。
文って呼ばれてるのは、たぶん真ん中の人。黒いロングのストレートヘアを、胸までたらしている。すごい直毛で、日本人形みたい。小顔に、つけまつげをしたぱっちりの黒い目。
短いスカートからのぞく白い足はスッとまっすぐ、細くて長い。股下、何センチあるのかな?
「……行かなきゃダメですか?」
ヨウちゃんは眉間にしわを寄せて、後ろ首に手を置いた。
うわ……すっごいイヤがってる……。
教室のあちこちに、ムダに視線を向けたりして、だれかの救いを求めてるみたい。
ふっと琥珀色の瞳が、あたしを捕らえた。
あたしの呼吸は停止する。
ヨウちゃんが、真正面からあたしを見ている。
「葉児、さっさと行って来いよ。あいつら、うざくてたまんねぇんだけど」
大岩がヨウちゃんのわきをこづいた。
ヨウちゃんはハッとしたように、あたしから目をそらす。
「……ああ」
のろのろと教室から出ていくと、三人の先輩たちはキャーキャーはしゃいで受け入れた。
「ちょっとこっち。人にきかれないとこに来て」
文って呼ばれてる先輩が、ヨウちゃんの腕をつかんで、廊下へ引っ張っていく。
窓際の席で、リンちゃんがツインテールをかきあげた。
「なにあれ? メス丸出しで、ヤなカンジ。中条君がカッコイイことくらい、うちのクラスの女子なら全員わかってんですけど! バッカじゃないのっ!」
「全員って、うちらまで勝手に数に入れるなよ。ここに例外がふたりいるんだけど」
真央ちゃんがつっ込みを入れたけど、有香ちゃんはなにも言わなかった。眉をひそめて、ヨウちゃんが出て行った廊下の先を見ている。
「……綾ちゃん……。あれ、ちょっと覚悟しといた方がいいかも……。サイアクな事態を……」
ぐっと息を飲んだ。
サイアクな事態。
「いつか来る」って、わかってた。
ヨウちゃんと別れたときから、ずっと。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
たぬき
くまの広珠
児童書・童話
あの日、空は青くて、石段はどこまでも続いている気がした――
漁村に移住してきたぼくは、となりのおばあさんから「たぬきの子が出る」という話をきかされる。
小学生が読める、ほんのりと怖いお話です。
エブリスタにも投稿しました。
*この物語はフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。
がきあみ ―閻魔大王がわたしたちに運命のいたずらをした―
くまの広珠
児童書・童話
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」
クラスメイトの宝君は、告白してくれた直後に、わたしの前から姿を消した。
「有若宝なんてヤツ、知らねぇし」
誰も宝君を、覚えていない。
そして、土車に乗ったミイラがあらわれた……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『小栗判官』をご存知ですか?
説経節としても有名な、紀州、熊野古道にまつわる伝説です。
『小栗判官』には色々な筋の話が伝わっていますが、そのひとつをオマージュしてファンタジーをつくりました。
主人公は小学六年生――。
*エブリスタにも投稿しています。
*小学生にも理解できる表現を目指しています。
*話の性質上、実在する地名や史跡が出てきますが、すべてフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。
月神山の不気味な洋館
ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?!
満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。
話は昼間にさかのぼる。
両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。
その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
おねしょゆうれい
ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。
※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
箱庭の少女と永遠の夜
藍沢紗夜
児童書・童話
夜だけが、その少女の世界の全てだった。
その少女は、日が沈み空が紺碧に染まっていく頃に目を覚ます。孤独な少女はその箱庭で、草花や星月を愛で暮らしていた。歌い、祈りを捧げながら。しかし夜を愛した少女は、夜には愛されていなかった……。
すべての孤独な夜に贈る、一人の少女と夜のおはなし。
ノベルアップ+、カクヨムでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる