ナイショの妖精さん

くまの広珠

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1 花田中学一年生

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 校庭の桜の花が散っている。

 外は春のあたたかい陽気に包まれているのに、あたしは花粉症でくしゃみばっかり。


あやちゃん、おはよ~」


 ふり向くと、有香ありかちゃんが教室に入ってきていた。有香ちゃんのとなりで、真央まおちゃんも手をあげる。


「オッス、綾! って、何度見ても、綾の制服姿、笑えるんだけど。なんていうか、服のオバケ?」


 お腹を抱えて笑う真央ちゃん。真央ちゃんて、男言葉をつかうし、態度も男みたいなんだけど、ほっぺたはふくふくで、とっても女の子。天然パーマのショートの髪が、ふわふわゆれてる。


 も~。しつれいっ!


 あたしは自分の紺色のブレザーのそでぐちを、ぎゅっとまくしあげた。だけどすぐに、そでは元どおり、だらんとのびて、手の甲が隠れちゃう。

 小さなあたしの身長に、中学の制服は大きすぎる。ブレザーの肩幅は広すぎだし、紺色のブリーツスカートも、長すぎ。


「いいんだよ、綾ちゃん。綾ちゃんの制服姿、萌えるよ~。その新鮮さがたまんないっ!! 」


 有香ちゃんが、黒縁メガネの奥で、切れ長の目を細めた。


 え~? 有香ちゃんだって、あたしとおんなじピカピカの中学一年生なのに~。


 だけど、有香ちゃんの制服姿はサマになってる。

 二つに分けて胸の前でたらした、黒いつやつやの髪。長くて細い手足で、背筋をのばして。シャキっとしてるから、もう、生徒を通り越して、インテリのオネエサマ先生みたい。

 真央ちゃんだって、入学してまだ一週間なのに、スカート短め。カブみたいに白い太ももがむき出しだし、学校指定のリボンをはずして、ワイシャツの胸元を、広めに開けてる。中に青いタンクトップを着てなかったら、大きな胸の谷間が見えちゃうよ!


「ね、まことも。綾ちゃんの制服姿、カワイイって思うでしょ?」


 有香ちゃんが、後ろから教室に入ってきた誠を呼びとめた。


「えへへ~。うん、カワイイ~」


 誠は後ろ頭に手を置いて、ほっぺたをリンゴ色に染める。


 も~。誠ってどうしてこう、直球なんだろ?


 あたしのほっぺたまで、熱くなっちゃう。

 男子の制服は、紺色のブレザーと紺色のズボン。

 小学校の教室では、いつも色あせたトレーナーを着ていた誠だから。ピリッと折り目のついたズボンに、のりのきいたブレザーを着ていると、なんか別人みたい。

 短めの髪もあれ、ワックスをつけて立ててるのかな? 横に広がった大きな耳に、くりくりぱっちり二重の目。

「えへへ」って大きな口を横に開いた、脱力系の笑顔はあいかわらずだけど。


「誠だってカッコイイよ」


 わりと本気で言ったんだけど。誠ってば、「わ~い! 和泉いずみがお世辞言ってくれた~」って大はしゃぎ。それから、「くしゅん」って、くしゃみした。


「あれ? 誠も花粉症?」

「だよだよ~。毎年この時期は、ポケットテッシュが手ばなせないや。和泉も?」

「あたしは、今年から。サイアク~。頭重くって、体ダルイの~」

「オレ、鼻炎薬持ってきてるから、あげよっか? 熱は、ないよね?」


 誠のしめった手のひらが、あたしのおでこにひんやり置かれる。


「うん~。熱はないみたい~」


「って、あんたら!」


 真央ちゃんが、誠のわきをひじでつついた。


「朝っぱらから、なに、ナチュラルにスキンシップしてんの?」


「……え?」


 頭のてっぺんでアホ毛をゆらして、あたし、まばたき。


 あれ……? ホントだ。

 誠っていつも、すごく自然にこういうことするんだよね……。


「あははは。ホントだ、オレ今、和泉にふつ~にさわっちゃった~!」


「ねえ、ふたりとも、それでホントにつきあってないの?」


 有香ちゃんが、あたしの耳に口を近づけて、声をひそめた。


「……うん」


 あたし、きょとん。

 誠を見あげたら、ちょっとくちびるをとがらせて、足元のゆかを見つめてる。
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