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6 ヤドリギの下で
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しおりを挟む背中越しにハグが近づいてくる。釣りざおのように肩の上にかついでいるのは、妖精の羽のついた杖。
「……なん……で? 杖は、崖に落ちていったはずなのに……」
「だからね、この杖には、ゴールデンロッドのパウダーがふりかけられているんだよ。何度この杖を失くしても、どんな入れ物に入っていても、わたしの意識があるかぎり、この杖はわたしの手元にもどってくるだろう。いまや、この杖とわたしは一心同体。
フェアリー・ドクターの薬とは、なかなか便利なものだね。すべて割ってしまって、惜しいことをした。また、あの子に頼み込んで、つくってもらわなきゃなぁ」
「よ、ヨウちゃんが、あんたの頼みなんかきくわけないじゃん!」
「そうかぁ。それなら、しかたがない。こんなおじさんの体はやめて、きみの体を借りようかね。きみの姿なら、ヨージだって、ちょっとムリなお願いでもきいてくれるだろう?」
「っ!」
ガッと、あたしの左肩を、杖の先がついた。
強烈な痛みに、一瞬息がとまる。
「ふふふ。まるで標本箱にピンで打たれた、アゲハチョウだね。さぁ、アヤちゃん! わたしのために、その体をゆずっておくれ」
「い……イヤ……」
肩が痛い。
杖に力を込めて地面に押し付けられていて、動けない。
ヨウちゃん!
あたしは身をよじった。
ぜったいに、ヨウちゃんのところにもどるんだからっ!
「え~いっ!! 」
おおいかぶさってきた相手のみぞおちを、思い切り足で蹴りあげる。
「ぐぇえ!」
ハグがうめいた拍子に、あたしは飛び起きて、森の中にかけこんだ。
「待てぇ! クソガキぃっ!! 」
雑木林の木の葉は、ほとんどが落ちていて、枝だけになっている。
チョウチョの羽を広げられないほど、木々のすき間はせまい。
「待てぇえええ……」
地を這うようにせまってくる、しわがれた老婆のうめき声。
怖い! 怖いっ! 怖いっ !!
涙がこぼれても、ぬぐってるひまはない。
あたりは木の幹ばっかり。
どっち? どっちっ!?
どっちを行けば、外人墓地につけるのっ!?
あたしって、いつもこう。アホっ子だから、自分の決めた道がまちがってることにも気づかないで、どんどん先に進んでいっちゃう。
だけど、もし、まちがいだったら?
あたしはずっと、こんな森をさまよい続けるの?
だって、先に希望が見えない。
これで、ハグから逃げきれたって。
ヨウちゃんが儀式を成功させたって。
ハグが鏡の中に閉じ込められて、土にうめられたって。
あたしはもう……ヨウちゃんと手をつなげない……。
木の根っこに、つま先が引っかかった。
「きゃんっ!」
あたしは、鼻からしめった土の上に、ダイブした。
枯葉を体につけながら、ミノムシみたいにごろごろまわって、すべり台みたいに、斜面を転げる。
すぐにザクザクと枯葉を踏む音が、近づいてくる。
追いつかれちゃう。
もう……体中痛くて立ちあがれない……。
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