ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 あたしたちの決断

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「……ああ。たしかに今は、綾が妖精だったおかげで助かった。ありがたいと思ってる。けど、でもやっぱり、妖精の体は危険すぎる。

鵤さんが言ったとおり、ハグはまだ、おまえをねらっていた。今晩、なんとか、とうさんの体からハグを切りはなせたとしても、あいつの本当の仕留め方がわからないかぎり、ハグはまた、きっと出てきて、おまえの体をねらう……」


「だから……ハグにねらわれない、魅力のない体になれって……?」


「……そう」


「で、でも……そんなの……わかんないじゃん。鏡を割って、土にうめれば、ハグだって出てこれなくなるって、ヨウちゃんのお母さんだって……」


「かあさんは、仮定の話しかしてねぇよ。鵤さんだって……生きていたとして、とうさんにだって、わからないと思う。この先に起きることは、もう、だれにもわからないんだ。

綾、また、あいつに体をのっとられてもいいのか? それにおまえの羽のりんぷん。万能薬かもしれないけど、つかい切ったら、おまえは消滅するんだぞ。あいつは……妖精を消滅させることくらい、へいきでやる……」


 そうだ……。


 あたしは、自分の肩を自分で抱いた。


 ハグは、妖精たちを、自分の杖をつくるためだけに、消滅させたんだ。


「妖精が消滅する方法はいくつかある。けど、羽を切る方法だけが、人間の綾の体に負担をかけない、唯一の方法だ。それは、前にも話したよな?

羽を切れば、妖精の綾は消えてしまう。けど、人間の綾は、無傷でちゃんと生きられる。だったらもう、それでいいじゃねぇか。それで、ハグにねらわれなくなるんなら」


「……そう……だけど……」


 そんな……「こっちがダメなら、あっち」みたいな単純な理由で、あたしは羽を失っちゃうの……?


「でも……あたしに羽がなくなっても……ヨウちゃんのそばにいたら、それだけで、ハグにねらわれるんじゃない?」


 あたしの声が闇にしずんでいった。


「……なんだよ、それ……?」


 懐中電灯に照らされたヨウちゃんの眉間が、ぎゅっとちぢこまる。


「だって、そうじゃん。たしかに、羽を切っちゃえば、今のあたしほど、あいつにとって魅力はなくなると思うけど。でも、あいつは、ヨウちゃんを痛めつけるために、へいきでまわりをつかうようなヤツでしょ。

正直言って、ヨウちゃんのそばにいるかぎり、あたしがハグにねらわれることは、かわらないと思う」



 ……あれ?



 あたし、何言っちゃってんだろ……?



 胃がどんどん冷たくなってくる。


 あたしはただ、羽を切られたくないってだけなのに。



 これじゃ、まるで……。




「じゃあ……別れるか?」



 あたしは顔をあげて、ヨウちゃんの目を見た。

 琥珀色の瞳。硬く、強く、正面からあたしを見返してくる。


「オレとは……無関係な人間になるか? だったら、たしかにもう、綾がねらわれることはなくなるな。けど……羽は切ったってことにするんだぞ。で、この先ずっと、羽を隠して生きていく。羽があったら、オレのそばにいようがいまいが、おまえはハグに、ねらわれるんだから」


「……わかってる。これが終わったら……あたし、羽を切ったってことにする」


「……綾っ! おまえ、本当に意味がわかって言ってんのかっ!?  オレは、おまえと『別れる』って言ってんだぞっ! おまえ、オレのそばにいるより、今後はずっと、つかえない羽を持ち続けるほうを、取る気かよっ!?」




「……うん」



 あたしは、かみしめるみたいにうなずいた。

 一度うつむいちゃったら、もう顔をあげるのが怖い。


 ヨウちゃんの顔を見られない。

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