ナイショの妖精さん

くまの広珠

文字の大きさ
上 下
355 / 646
5 あたしたちの決断

45

しおりを挟む




 冬の夜の浅山は、虫の声さえきこえない。

 しんと冷えた空気が、影になる木々のすき間まで、重たくうめてしまってる。


 あたしはマフラーにあごをうずめて、白い息をはきだしながら、登山道入り口まできて、立ちどまった。

 懐中電灯の光を、山道に向けてみる。

 道ぞいの木の幹で、巻かれた黄色い蛍光テープがキラッと光った。その五メートルほど先の幹でも、黄色い蛍光テープが、懐中電灯の明かりに照らされる。

 鵤さんが、ヨウちゃんのために巻いておいてくれた、道しるべ。


 コートのポケットで、キッズケータイがバイブした。

 取り出して画面を見たら、ママからの着信だった。


 うわっ!?  あたしがうちにいないこと、もうバレちゃったっ!


 時計表示は夜の八時十分。バイブが震えるたびに、ママの心配が手のひらに伝わってくるみたい。


 ごめんなさい、ママ。あたしはすごく悪い子です。

 家に帰ったら、いっぱい怒られますっ!


 枯葉を踏んで、登山道を歩き出す。

 道を数メートル進んだところで、さっきまでいたアスファルトの道を、車のライトがのぼってきた。

 懐中電灯を消して、道の横の木の陰に、身をかがめる。

 車は、登山道入り口で停車した。

 前の左右のドアが開いて、ふたりの人影がおりてくる。人影は、すぐに後部座席のドアを開けた。寝ているだれかを、頭と足で抱えて、ふたりがかりでおろしている。


 わ……これから犯罪を隠ぺいする犯人みたい……。


 ママが好きな刑事ドラマを思い出して、心臓がちぢみあがる。


「葉児、だいじょうぶ? やっぱり重いでしょ?」


 ヨウちゃんのお母さんのひそひそ声がきこえてきて、ホッとした。


 よかった。あそこにいる人たちは、やっぱりヨウちゃんとお母さんだ。


 ってことは、今、ヨウちゃんの背中の上に押し上げられた人が、ヨウちゃんのお父さん。

 つまり、ハグ。


 ヨウちゃんもお母さんも、ちゃんと計画を遂行してるっ!


「へいきだ。なんとか歩ける。じゃ、行ってくるから。帰ってくるまで、だいぶ時間がかかると思うけど」


「何時間でも、待つわよ」


 お母さんが手をふると、ヨウちゃんはひとつうなずいて、登山道入り口に足を踏み込んだ。


 うわ……大荷物……。


 ヨウちゃんの肩からぶらさがる、お父さんの両腕。筋肉質なお父さんの胸が、ヨウちゃんの細い腰におぶさっている。

 肩にたすきがけしてるショルダーバッグの中身は、たぶん鏡。


 一歩、二歩。

 登山道に入ると、ヨウちゃんは首にひもでぶらさげているビンのコルクを、歯で抜いた。

 ビンをかたむけて、虹色に光る粉を、登山道とアスファルトの道路の境に撒いている。


「ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダーよ。ダーナの末裔とうつしよをわかちたまえ」


 声に応えるように、虹色の粉から、虹色の光が立ちのぼった。

 光は壁のように、お母さんとヨウちゃんをへだてる。


 やがて光は、夜闇に吸い込まれて消えていった。

 これでもう、ヨウちゃんがフェアリー・ドクターの魔術を解除するまで、この山の中には妖精とフェアリー・ドクター以外、立ち入れない。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

たぬき

くまの広珠
児童書・童話
あの日、空は青くて、石段はどこまでも続いている気がした―― 漁村に移住してきたぼくは、となりのおばあさんから「たぬきの子が出る」という話をきかされる。 小学生が読める、ほんのりと怖いお話です。 エブリスタにも投稿しました。 *この物語はフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。

がきあみ ―閻魔大王がわたしたちに運命のいたずらをした―

くまの広珠
児童書・童話
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」 クラスメイトの宝君は、告白してくれた直後に、わたしの前から姿を消した。 「有若宝なんてヤツ、知らねぇし」 誰も宝君を、覚えていない。 そして、土車に乗ったミイラがあらわれた……。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 『小栗判官』をご存知ですか? 説経節としても有名な、紀州、熊野古道にまつわる伝説です。 『小栗判官』には色々な筋の話が伝わっていますが、そのひとつをオマージュしてファンタジーをつくりました。 主人公は小学六年生――。 *エブリスタにも投稿しています。 *小学生にも理解できる表現を目指しています。 *話の性質上、実在する地名や史跡が出てきますが、すべてフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

桜ヶ丘中学校恋愛研究部

夏目知佳
児童書・童話
御手洗夏帆、14才。 桜ヶ丘中学校に転入ほやほや5日目。 早く友達を作ろうと意気込む私の前に、その先輩達は現れたー……。 ★ 恋に悩める子羊たちを救う部活って何? しかも私が3人目の部員!? 私の中学生活、どうなっちゃうの……。 新しい青春群像劇、ここに開幕!!

こわがりちゃんとサイキョーくん!

またり鈴春
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞にて奨励賞受賞しました❁】 怖がりの花りんは昔から妖怪が見える ある日「こっち向け」とエラソーな声が聞こえたから「絶対に妖怪だ!!」と思ったら、 学校で王子様と呼ばれる千景くんだった!? 「妖怪も人間も、怖いです!」 なんでもかんでも怖がり花りん × 「妖怪は敵だ。すべて祓う」 みんなの前では王子様、 花りんの前では魔王様!! 何やら秘密を抱える千景 これは2人の人間と妖怪たちの、 ちょっと不思議なお話――✩.*˚

処理中です...